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REALTY PRESS
不動産ID

 

2023年1月18日

不動産IDは2022年より本格導入され、
その充実は不動産情報の透明性を高め多様な連携や活用を促進します

DXの進展を阻害する不動産業界の特有事情

2022年12月に日銀の短観が発表されましたが、経済の先行きという本来の状況以上に懸念事項として取り上げられたのは、急速に高齢化社会に突入しつつある日本の、労働力の低下という事態が早々に顕在化するであろうということでした。

もちろんそれを想定してのICT やAIなどの導入による課題解決の方策は、各産業界においても急ピッチで進められてはいますが、 彼我のギャップを検証した際には決して楽観を許さない局面に置かれています。

2018年に経済産業省によってDXを推進するために取りまとめられたガイドラインに応じて、不動産業界においても取組みは進められているものの、不動産業務における物件・顧客の膨大なデータ管理や各種書類手続き、また物件の内見対応や入居業務など依然マンパワーに依存するアナログ的業務が残存し、加えて不動産・物品賃貸業の97.8%が小規模事業者であるという実情もあって、その進捗は難航しているのが現状です。

不動産業界ならではの、そういった事業規模等の特性を踏まえると、致し方なしとされる面も多々ありますが、経済産業省が先のガイドライン策定の際、「DXの進まない状況では、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失を生じる可能性が高い」といわゆる「2025年の崖」として警鐘をならしたことからも、悠長に構えているわけにも行かなくなっています。

既に大手不動産会社では、決裁システムと会計システムを統合したフルクラウド化が実現されていたり、売買契約時の各段階の文書管理や署名捺印時における電子化や事項説明等のオンライン化による非対面手続きが進められていたりと、個々のDX施策はかなりのレベルで実現されてはいますが、それらを業界全体に普遍化する際には、各企業特有の事情を乗り越えての実現が可能かということや、不動産業の約98%を占める小規模事業者が導入する際のコストや、十分にその機能をハンドリングできる人員を擁しているか、という問題も立ち塞がります。

もっともそこまでのレベルではなくても、身近な業務でのIT化には着手されています。物件や顧客の管理台帳のようなものはデジタル入力とクラウド化によって誰もが手軽にアクセスでき、必要があれば容易に情報更新もできる環境が実現されて、紙によるファイリングを不要としたペーパーレス化を推進するとともに、ストックスペースや従事時間の削減に寄与しています。

また、2017年10月以降、時間と費用をかけてその場に臨席する必要のあった不動産賃貸契約や売買契約時の重要事項説明において、ITによる説明が解禁されたことで、人的負担を大幅に軽減することも可能になりました。

DX施策の推進のバロメーターとなる「不動産ID」

2020年7月の閣議決定により、国は成長戦略分野として「データ駆動型社会に向けた情報の整備・連携・オープン化」を進めており、「不動産ID」もその一つとして国土交通省によりガイドラインが策定され、2022年春以降導入が進められています。

例えば「人」の場合、住民基本台帳や戸籍によってその固有データが特定されることに加えて、マイナンバーカードの登録・整備が進めば、さらに多様な個人情報がデータベースとして統合されることになります。

一方、不動産という同様に固有性を持つ資産については現状、関与する不動産会社に取得された情報がその会社のニーズに応じた形で保持されており、共有性という面では不十分な状態に留まっているので、まずここにIDを導入し、物件の固有情報を確定させようと言う仕組みです。

具体的には現段階の不動産登記簿においても付与されている13桁の不動産番号に、オフィスビルの各フロアや集合住宅の各号室に相当する4桁を加えることで識別性を高め、物件の特定を容易にします。これによって、不動産情報サイトにおける重複掲載やおとり物件を排除して利用者の誤認を防止し、業務面では物件の紐付けや名寄せを容易にし、データの閲覧や利用をスムーズにすることにより、省力化にも寄与します。

このガイドラインにおいては、基礎的な諸事項に加え、リフォーム履歴やインフラ・都市計画情報、ハザードマップ情報などもこの不動産IDに付帯するデータベースとして段階的に登録される想定であり、高精度のAI査定などの導入対象として機能するようなビッグデータに成長することが期待されています。

この不動産ID、今後の拡充に向けては、いくつかの課題も内在しています。例えば、データの登録に関して、官民を問わず多くの主体が自発的に参加し、整備・蓄積を図っていくことが前提条件になりますが、不動産業者の大部分が小規模事業者であるので、登録や活用の徹底には、少なからぬ困難が予想されること、また社内や団体で独自のデータベース等を既に導入している企業等では、それらとのマッチングや調整が不可欠になってくることなどです。さらに、物件の取引情報等は個人情報とも密接な関連があるケースも多く、情報開示に対してのデリケートな配慮が必要になってくることなどの事情もあります。

このように、易々とはクリアしかねるハードルが多く介在する状況ではありますが、粘り強く解決を図りつつ不動産IDの構築を推進していくことによって、多様な不動産DXが展開・発展する上で不可欠な、情報基盤の整備が実現されることになるでしょう。

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