不動産の価格相場や市況に関連する公表データというのは、実勢とのタイムラグがあります。
それは、株式や為替などと違って、価格相場が上がったり、下がったりしても、すぐにそれが、データとなって表に出てこないからです。
代表的なものとしては、公示地価や路線価などがありますが、これらは、発表の時点で、既に半年前後のタイムラグがあります。
例えば、公示地価は、毎年1月1日時点の「公示地」と呼ばれる特定の土地の価格を、地価公示法に基づいて不動産鑑定士が評価・算定し、それらを国土交通省がとりまとめて、3月後半に発表しているものです。
ですから、実際には、発表される前の年の秋頃から鑑定評価作業が始められており、どうしても、発表時点とのタイムラグが出てしまうのです。
注意しなければいけないのは、公表されているデータでは、「値上がり」となっているのに、実際には既に、「値下がり」に転じているということがあり得るという点です。
つまり、不動産の市況というのは、公表データを当てにしていては、実態から取り残される恐れがあるので、公表データだけでなく、世の中で起こっている様々な「兆候」をウォッチして、市況の変化を感じとる必要があると言えるでしょう。
どのような指標か | 評価の目安 | 基準日 | 公表時期 | 管轄 | |
---|---|---|---|---|---|
公示地価 | 一般の土地取引価格の指標 | 実勢価格の100% | 毎年1月1日 | 3月下旬 | 国土交通省 |
基準地価 | 一般の土地取引価格の指標 (公示地価の補完) |
実勢価格の100% | 毎年7月1日 | 9月下旬 | 都道府県 |
相続税路線価 | 相続税・贈与税の税金 の計算の基礎なる価格 |
実勢価格の80% | 毎年1月1日 | 7月初旬 | 国税庁 |
固定資産税評価額 | 固定資産税評価額 | 固定資産税・登録免許税・不動産取得税などの税金の計算の基礎となる価格 | 毎年1月1日 (3年に一度評価替え) |
3~4月 | 市町村 |
28年に渡り不動産ビジネスに携わってきましたが、この間、不動産市況の循環を見てきました。
最初は、1990年代のバブル崩壊による下降期です。
次に、2004~2007年前後の不動産ファンドバブルによる上昇期、そして、その反動として、2008年のリーマンショック以降の下降期。
この2つの下降期については、不動産価格の暴落が生じた、いわゆる「ハードランディング」でした。
それから、2013年以降、アベノミクスによる異次元の金融緩和などを背景とした上昇期を迎えました。
金融緩和によって、金融機関が、地主や資産家以外の一般の会社員などのいわゆる「サラリーマン投資家層」に対して、こぞって、アパート・マンション融資(以下、「アパマンローン」)を出すようになったため、これまで、一棟アパート・マンションの購入には手を出せなかった層が、続々と不動産投資に参入し、物件価格は上昇しました。
更には、2020年の東京オリンピックに向けたインフラ整備や、インバウンド需要の急激な増加による開発の加速もあって、地価上昇の波が全国に広がってきました。
国土交通省が3月27日に発表した2018年1月1日時点の公示地価は、商業・工業・住宅の全用途(全国)で0.7%のプラスと3年連続で上昇しました。
地方圏も26年ぶりに上昇に転じ、0.041%のプラスとなりました。
バブル崩壊以降、3年連続の公示地価上昇は1992年以降で初めてだということです。
公示地価という数字の上では、市況は上向いているように見えますが、実は、その中身を見て行くと、一部の分野では、価格下落が進行し、その分野を中心に営業していた不動産会社の中には、廃業や大幅なリストラを余儀なくされているところが最近少しずつ増えている状況もあります。
その分野というのは、前述したサラリーマン投資家をプレイヤーの中心とした一棟アパート・マンションなどの不動産投資マーケットです。
この現象は、金融庁が融資審査を厳格化する方針を打ち出したことに端を発しています。
2016年9月、金融庁が不動産向け貸出(個人向けアパマンローン含む)の増加について、「今後の動向について注視が必要」と指摘し、日銀も2017年4月に「地域によっては賃貸住宅の空室率が高まっており、これまで以上に融資審査や中間管理の綿密な実施が重要」と警鐘を鳴らし始めたのです。
これは、2016年12月末の国内銀行のアパマンローン残高が前年比4.9%増の22兆1668億円に拡大したように、過剰融資が貸家(賃貸住宅)の「建設バブル」を助長する懸念が出てきたためです。
金融庁の方針を受け、2017年に入ってから金融機関は、個人向けアパマンローンに対する審査を厳格化する傾向が強まり、2017年1-3月の国内銀行の「個人による貸家業」向けの新規貸出は前年同期比0.2%減の1兆0508億円と、2014年10-12月以来の減少に転じました。
不動産というのは、融資が引き締めになると、買い手が減少し、価格も下落傾向となっていくものです。
過去のバブル崩壊やリーマンションショックの時も、まさに、不動産に融資が出なくなったため、価格が値下がりしたわけです。
ただ、今回については、現在のところ優良物件、不動産のプロのマーケットである高額帯の大型物件取引や都心部等の取引には、その兆候が見られていません。これは、こういった不動産のプロや、事業法人に対する不動産融資、優良物件の対する融資に関しては、サラリーマン投資家層向けアパマンローンで見られるような融資の引き締めが行われていないからです。
政府としても、過去の暴落という「ハードランディング」を避け、「ソフトランディング」をさせたいと思っているはずです。
また、デフレから完全脱却し、インフレターゲット目標を達成するためにも、不動産市況の悪化は回避したいでしょう。
ただし、サラリーマン投資家向けの不動産投資マーケットの下落が顕著にあらわれた場合は、ボディーブローのように、全体の不動産投資マーケットに影響を与えてくる可能性はあり得ると思います。
また、2020年の東京オリンピック前の利益確定を目的とした物件売却の増加により、供給過剰が生じるリスクもあります。
ちなみに、リーマンションショック(2008年9月)の前には、2007年の時点で既に、「サブプライムローン問題」が顕在化しており、市況が悪化する予兆がありました。
売り時、買い時のタイミングの見極めは、なかなか難しいのですが、データが公表される前に起こっている様々な兆候をウォッチして、市況を先読みする力を養って頂くことをお勧めします。
特に「不動産融資に対する金融庁の方針および金融機関の融資姿勢」は、日頃から情報収集をしておくのも宜しいかと思います。
星 龍一朗
リアル・スター・コラボレーション(株) 代表取締役
不動産投資のセカンドオピニオンとして活躍。
1967年生まれ 大手不動産流通会社、不動産投資アセットマネジメント会社などを経て独立。
主に個人向けに不動産投資、賃貸経営のアドバイスや講座・セミナーを通じて、資産形成をサポート。セカンドオピニオンとしてのコンサルティングを提供。
まずは、お気軽にご相談ください。