こんにちは。今回からコラムを担当させていただく、相続専門の公認会計士・税理士の石倉です。
日々、相続のご相談をお受けしていると、様々なご家族にお会いします。仲の良いご家族、仲が悪いご家族、疎遠になっているご家族等々。本コラムでは、普段あまり聞くことの出来ない「相続の現場」で起きていることを、守秘義務を守りながらご紹介していきます。皆さんのご関心が高い相続税の節税対策などについても定期的に触れていきますので、ぜひ気軽にお読みください。
2015 年の相続税増税以降、生前の相続のご相談がかなり増えてきました。皆さん、なかなか他人に打ち明けられない悩みを多く抱えていらっしゃるようです。特に、相続の悩みは、とてもプライベートな悩み。「親のお金」に関することから、親子や兄弟同士の人間関係、過去のいざこざ等、実に多くの個人情報を含んでいます。それ故に、本当は信頼できる専門家に相談したいけれど、専門家とはいえ見ず知らずの人に個人的な悩みをオープンにすることにためらいがあり、躊躇されている方が多いようです。
今回のコラムでは、そんなご相談事例の中から、ちょっと気になる「最近の相続の傾向」についてお話ししたいと思います。(守秘義務があるため、個人が特定されるような情報を伏せてご紹介します。)
先日、こんなお客様がご相談にいらっしゃいました。ご相談にいらしたのは二人兄弟のご長男。80 代の父を半年前に病気で亡くしたことから、相続手続きを進めたいというご相談でした。お母様は既に10 年前に亡くなっているため、相続人はこの長男と、次男のお二人。最初にご長男とお会いした時は、兄弟関係は良好と伺っていたため、相続手続きはスムーズに進むと考えられていました。
しかし、遺産分けの話し合いのため、相続人二人が顔を揃えた日、状況が一変します。当初、相続人である長男、次男の二人だけで話し合いを行う予定でしたが、急遽両者の奥様方も同席。何やら怪しい雰囲気を漂わせながら話し合いがスタートします。まずはご長男の主張。「祖父や父が代々守ってきた○○家の土地を、自分の代でも残し守り続けたい」というご意向でした。具体的には、自宅とその周辺の土地を自分が相続し、その代り次男には預金や株式などを相続してもらいたい、という希望です。長年、病気がちな父の介護を長男がしてきたこともあり、弟もそれで納得してくれると思っていらしたようです。
一方、次男の主張はこうです。「俺は、土地や家には興味がないから、お金が欲しい。」ここまで聞くと、何の問題もない両者の主張です。お兄さんは不動産を、弟さんはお金を相続して円満に話し合いは終了するはずでした。しかし、弟さんの次の一言で、状況は一変します。「兄さん、俺が欲しいお金は、父さんが残した預金や株式だけじゃなくて、不動産を含めたすべての遺産の『きっちり半分』だよ。」
遺産の内訳が、預金と不動産で半分ずつであれば何の問題もありませんが、多くのご家庭では、預金よりも不動産(特に自宅の土地)の評価が高いケースが多いでしょう。このご家庭でも、預金と株式の合計は2,000 万円でしたが、自宅とその周辺の土地の評価額は8,000 万円。弟さんが『きっちり』全体の遺産の半分を相続するためには、お金が足りません。これでは、ご長男が土地の一部を売却してお金に換えるか、銀行などから借金をして次男に足りないお金を支払うなどの対策を取らなければなりません。
さて、ここまでお話をすると、「そんな話、昔からよくあるよ。」と言われそうですが、今回お伝えしたいのは、この兄弟の「関係性」です。先にお話しした通り、実はこのご兄弟、普段は仲が悪くないのです。いや、遺産を分ける話し合い以外は、むしろ仲がいい。お互いを罵り合い、激しく非難し合う関係性ではないのです。きっと亡くなったご両親も、「うちの子供たちは仲がいいから、いわゆる”争族“にはならない。」と思って、遺言書を残さなかったに違いありません。
実は最近、このご兄弟のような相談が増えています。普段は仲がいい、だけど遺産分割の話し合いは別。お互いの権利を淡々と主張して、もらえるものはしっかりもらう。そして、自分たちで解決できなければ、粛々と弁護士を立て、家庭裁判所に決めてもらいます。まさに、「右手で握手をして、左手で殴り合う」ような関係です。
私が小学生の頃、父がよく宝くじを買ってきてくれました。当時は、まだインターネットがない時代でしたので、当選番号の発表は新聞です。ポストに新聞が配達されると急いで取りに行き、ドキドキしながら当選番号を照らし合わせたことは今でもハッキリ覚えています。
もし一等賞が当たったら、どこに旅行に行こうか?どんな美味しいものを食べに行こうか?どんなオモチャを買ってもらおうか?私の「妄想力」は、この時に鍛えられたに違いありません。しかし、毎回当たる番号と言えば末尾の数字のみ・・・。当選金額も数百円、良くても数千円です。子供ながらに「私はくじ運がないんだなぁ」と嘆いたものです。
「年末ジャンボ宝くじ、一等・前後賞合わせると10億円!」なんて言われるとテンションが上がりますが、ここ数年、宝くじの売上額が大きく減少しているようです。総務省の発表によると、平成28 年度の宝くじの総売上は、18 年ぶりに9,000 億円を割ったとのこと。長期で見ても、売上額が1 兆1,000 億円を超えていた12 年前をピークに、増減を繰り返しながら宝くじの売上は、徐々に減少しているようです。「どうせ買っても当たらない。」「宝くじを買うよりも、食事代など他のことに遣いたい。」というのが、宝くじが減少している主な理由のようですが、実はこの宝くじの売上額減少とは対照的に、右肩上がりに増加しているものがあります。
この30 年間で右肩上がりに増加しているもの。それは『全国の家庭裁判所における相続の相談件数』です。平成元年に年間約50,000 件だった相続の相談件数はドンドン上昇し、平成24 年には年間約170,000 件を突破。景気の低迷が続き「失われた20 年」と言われるこの期間に、家庭裁判所に持ち込まれた相続の相談件数は3 倍強に増加しています。
ではなぜ、こんなにも相続の相談件数が増加しているのでしょうか?昔であれば、お墓を守る長男が多くの遺産を相続するという暗黙のルールがあり、親族間で揉めないように相続を乗り越えてきました。しかし、昭和22 年に「家督制度」が廃止されてから70 年以上たった今では兄弟間の平等意識がかなり高まっています。わざわざ、当たる確率が低い宝くじを買わなくても、確実に数百万、時には数千万の財産がタダで入ってくるチャンスがあるのです。それが「親のお金」、つまり「相続」です。
例えば、親や兄弟が亡くなった場合、法定相続人には、相続する権利が法律で与えられています。あとは、自分に認められたその権利を「主張」さえすれば数百万、数千万の財産が、ほぼ100%の確率で飛び込んでくるのです。いわば、『当選確率100%の宝くじ』。
「いやいや、私はお金に困ってないからいらないよ。」「兄弟同士でもめるのが嫌だから、私は相続を放棄するわ。」と仰る方もいますが、ある日身内が亡くなって、まとまった財産を相続できる権利が自分にあると分かった場合、本当にそれをいらない、と言える人がどれくらいいるでしょうか?「もし、身近な人が病気になって、急にお金が必要になったら。」 「勤めていた会社をリストラされて、急に収入がなくなったら。」「子供の受験で、まとまったお金が必要になったら。」タラレバを言ったらきりがないですが、将来お金が必要になる場面が絶対にないとは言い切れません。そう考えると、格差社会が広がる今の中にあっていわゆる“争族”が増えるのは、悲しいですが「当然の流れ」のように思えてなりません。
石倉 英樹
石倉公認会計士事務所所長
相続対策専門の公認会計士/税理士として活動する傍ら、『笑って・学んで・健康に!』をモットーとして、硬いテーマとなる相続問題や認知症対策、振り込め詐欺対策などを笑いに変える社会人落語家。
東京・埼玉を中心に口コミで噂が広がり、終活落語の高座の数は年間80回を超える。
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