2018/11/8 市況

【専門家が語る不動産投資】空き家820万戸時代の賃貸住宅市場の地域格差と注意点

空き家は本当に820万戸(空き家率13.5%)もあるのか?

昨今、テレビをはじめとする各種メディアでは、「空き家820万戸」「空き家率13.5%」「7軒に1軒が空き家」といった見出しが、数多く、取り上げられていて、非常に高い社会的関心を呼んでいます。
では、この数字の根拠をご存知でしょうか?
実は、この数字は、5年ごとに実施されている総務省「住宅・土地統計調査」の平成25年の調査結果が元データとなっています。

空き家数及び空き家率の推移―全国(昭和38年~平成25年)空き家数及び空き家率の推移―全国(昭和38年~平成25年)出展:総務省統計局「住宅・土地統計調査結果」

データというものは「一人歩き」しがちなので、その調査方法・算出根拠・定義を良く把握しておく必要があると思います。
総務省「住宅・土地統計調査」の場合、「空き家については、調査員が外観等から調査し、空き家の種類(別荘等の二次的住宅、売却用の住宅、賃貸用の住宅及びその他の住宅)ごとに、外観等から判断できる建物の属性(建て方、構造、腐朽破損の有無など)に関する結果を提供している」ことになっています。
調査対象は住民票などで事前に特定はせず、統計理論に基づいて無作為抽出で全国から約350万住戸を選定して調査をしています。
そして、空き家の特定方法は、空き家などの所有者に調査するのではなく、まずは訪問時間を変えるなどして、調査員が面接するように努め、それでも会えない世帯は、調査員が建物の外観を確認したり、近隣の人や建物の管理者などに確認するという手法です。
アパートやマンションなどの集合住宅については、オートロックの増加により、調査員が各住戸まで辿り着けない等で調査が困難になってきており、その点は事前に管理人などに協力依頼をしているそうです。
平成25年の調査というのは、同年9月23日から10月24日までの期間に実施されました。

住宅

「住宅」の中で「居住世帯のある住宅」とは、ふだん人が住んでいる住宅ということで、調査日現在当該住宅に既に3ヶ月以上に渡って住んでいるか、あるいは調査日の前後を通じて3ヶ月以上に渡って住むことになっている場合をいい、それ以外の「住宅」は「居住世帯のない住宅」といいます。「空き家」は「居住世帯のない住宅」の1区分となっているわけです。
次に、空き家の形態についてですが、大きく5つに分類されます。

【空き家の種類】

  • 二次的住宅(別荘)・・・・・週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で、ふだんは人が住んでいない住宅
  • 二次的住宅(その他)・・・ふだん住んでいる住宅とは別に、残業で遅くなったときに寝泊まりするなど、たまに寝泊まりしている人がいる住宅
  • 空き家(賃貸用)・・・・・・・新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅
  • 空き家(売却用)・・・・・・・新築・中古を問わず、売却のために空き家になっている住宅
  • 空き家(その他)・・・・・・・上記以外の人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など(空き家の区分の判断が困難な住宅を含む)

つまり、空き家の中には、「別荘」、「セカンドハウス」や「売却中で空室になっている住宅」も含まれていることになります。

都道府県別の空き家率(H20年、H25年)都道府県別の空き家率(H20年、H25年)出展:ニッセイ基礎研レポート「全国・主要都市の空き家数と空き家率の現況」 2016/5/2号

上記グラフの通り、H25年の空き家率は、山梨県が22.0%で最も高く、次が19.8%の長野県。宮城県が9.4%で最も低いという結果で、かなりの地域格差がありました。宮城県は東日本大震災の影響で、復興需要などもあり、空き家が大きく減少したと考えられます。
ここで忘れていけないのは、「空き家」の中には、「別荘」、「セカンドハウス」が含まれているということです。山梨県は富士五湖、長野県は軽井沢という別荘地があるため、空き家率が上昇し、全国1位・2位になってしまっていると言えるでしょう。

賃貸住宅空き家率は全国平均18.8%。都市によるバラツキも。

次に、下記の表・グラフから、「空き家」と定義されるもののうち、52.4%が「賃貸用の住宅」であることがわかります。

建て方、空き家の種類別空き家―全国(平成25年)建て方、空き家の種類別空き家―全国(平成25年)出展:総務省統計局「住宅・土地統計調査結果」

空き家の種類別内訳空き家の種類別内訳出展:総務省統計局「住宅・土地統計調査結果」も基に国土交通省が作成(平成25年)

賃貸経営をして行く上では、820万戸と言われる空き家のうち、半数以上の429万戸が賃貸用の住宅であるということに注視する必要があるでしょう。賃貸住宅の空き家率は18.8%となっています。
都市別に見て行くと、主要7都市では、以下の通りです。

主要7都市 賃貸用住宅数・空き家数・空き家率主要7都市 賃貸用住宅数・空き家数・空き家率出展:総務省統計局「住宅・土地統計調査結果」を基に筆者が作成

主要7都市 賃貸用住宅の空き家率(H20年とH25年比較)主要7都市 賃貸用住宅の空き家率(H20年とH25年比較)

上記の表・グラフから賃貸用住宅の空き家率については、仙台市の11.5%から大阪市の20.7%まで、都市によってバラツキが見られます。
そして、H20年からH25年にかけて、東京23区、横浜市、大阪市といった3大都市の空き家率が上昇し、札幌市、仙台市、福岡市などの地方都市のほうが低下していることが見てとれます。
これは、仙台市においては、東日本大震災後の復興需要などで、大幅に空き家率が低下していると考えられます。札幌市では10年以上前から単身者用物件を中心に供給過多が続いていたのですが、それがようやく、供給減となったため、空き家率が低下したものと推察されます。
このように、空き家率は、需給バランスによって、左右されるものです。
総務省統計局「住宅・土地統計調査」は、平成30年10月にも実施されますので、その調査結果が注目されます。平成25年~30年にかけては、個人による不動産投資ブーム、相続税増税の影響による賃貸住宅建設の増加、訪日外国人の大幅な増加などの現象がありましたので、地域によって賃貸住宅市場の需給バランスや、空き家率に大きな変化があることが予想されます。

賃貸住宅投資の際の注意点(マクロの視点とミクロの視点)

このように賃貸住宅市場は、需要と供給による影響を大きく受けますので、賃貸住宅の購入を検討する際には、マクロ的な統計データをチェックしておく必要があります。
例えば、物件が所在する市町村の人口動向です。人口が増えているエリアなのか、減っているエリアなのか、これは、各市町村のホームページを見れば掲載されています。
その他にも、最寄り駅の乗降客数は、各鉄道会社のホームページを見れば調べることが出来ます。
また、供給という面では、貸家着工件数をインターネットで調べることが出来ます。国土交通省が建築着工統計調査を実施し、その結果を月次で発表していますので、貸家の数字を見れば、賃貸住宅の供給の傾向を把握することが可能です。
なお、賃貸住宅の購入検討にあたっては、これらのようなマクロ的な視点だけではなく、ミクロ的な視点も非常に重要になってきます。
これは、賃貸住宅物件というのは、都道府県や市町村単位での競合というよりは、もっと狭いエリアでの競合の中で、勝ち抜けば良いという側面もあるからです。
ですので、ぜひ、実施していただきたいのが、住宅ポータルサイトで、購入検討している物件の競合となりそうな近隣の物件の賃貸募集条件リサーチです。
最寄り駅などが同じで、広さや、築年数、建物構造が似かよっている競合物件が、どのような募集条件を設定しているかを比較検証することにより、いわゆる相場を把握することが可能です。
その際、家賃・共益費だけでなく、敷金・礼金・その他の初期費用(退去時清掃代、鍵交換代等)・設備(オートロック、インターネット接続)も比較検証の対象とする必要があります。賃貸住宅ポータルサイトの中には、オーナー向けに、無料で賃料相場の把握を手助けするサービスを実施しているところもありますので、活用すると意外に便利です。
更に、お勧めしたいのは、実際に、購入検討物件の周辺にある賃貸物件を扱っている賃貸不動産会社等からのヒアリングです。不動産会社の営業担当等に依頼してヒアリング(調査)をおこなうと参考になることが多いです。
ただし、1社だけですと、偏った情報になる恐れがありますので、複数社へのヒアリングを依頼したいところです。
ヒアリングの項目等については、別の機会に詳しくお伝えできればと思いますが、大切なことは、「現在入居中の賃料が、現状の賃貸市場の中で妥当なのかどうか?」や、「新築物件や空室の住戸について、不動産会社が提案している想定賃料にちゃんと根拠があるのか?」を、きちんと確かめるということだと思います。
全てを鵜呑みにしてしまって、自分で確認をしないまま投資をすることは、「想定外」なことにつながりかねず、大きなリスクを伴いますので、この点を最後にお伝えさせて頂きます。


プロフィール

星先生

星 龍一朗
リアル・スター・コラボレーション(株) 代表取締役

不動産投資のセカンドオピニオンとして活躍。
1967年生まれ 大手不動産流通会社、不動産投資アセットマネジメント会社などを経て独立。
主に個人向けに不動産投資、賃貸経営のアドバイスや講座・セミナーを通じて、資産形成をサポート。セカンドオピニオンとしてのコンサルティングを提供。

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