2025年の「人手不足」倒産は397件となり、4年連続で過去最多を更新しました。少子高齢化による生産年齢人口の減少に加え、賃上げ競争の激化を背景に、生産性の向上や人材確保は企業の存続や成長を左右する重要な経営課題となっています。こうした事業環境では、不動産は単なる事業基盤ではなく人材確保や生産性向上、企業成長を支える経営資源としてその役割を高めています。「人手不足が企業不動産、企業経営を変える」と題し、以下の3部構成で解説します。
第1部 倒産要因と人手不足
第2部 人材確保と生産性向上を支えるCRE戦略と国内回帰
第3部 経済政策が不動産マーケットに与える影響
第1部では、倒産要因と人手不足について解説します。

永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一ライフ資産運用経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
1990年代初頭のバブル崩壊以降、デフレ経済において企業は人件費を抑制し、設備投資を絞り込み、現預金を積み上げることで生き残りを図ってきた。しかし、現在、企業経営を脅かしているのは、人手不足、設備不足、原材料不足などがもたらす「供給能力の限界」である。
「低賃金で労働力を確保し、低コストで事業を維持する」という従来のモデルは過去のものであり、賃上げ原資を確保できない企業や、人材を引きつける魅力的な就労環境を提供できない企業は、「倒産」という形で市場から淘汰され得る厳しい事業環境にある。こうした事業環境において、企業の経営資源の柱の一つである「企業不動産」の役割も変化している。かつてのCRE戦略は「コスト削減」や「資産圧縮」が注目されていたが、今日におけるCRE戦略は、優秀な人材を獲得・定着させ、労働生産性を高めるための「攻めの経営投資」へと再定義されている。
東京商工リサーチや帝国データバンクの統計を紐解くと、かつての景気後退期における倒産は、売上高の減少や取引先の連鎖倒産を要因とする「需要消失型」が主流であった。
しかし、現在の倒産を牽引しているのは、主に以下の3つの要因である。
①物価高・原材料高
イラン情勢をはじめとする地政学リスク、円安傾向、世界的な資源高を背景に、仕入価格やエネルギーコストが急騰。価格転嫁が不十分な中小企業を中心に収益が著しく圧迫されている。
②人手不足
案件や受注はあるにもかかわらず、現場の作業員、ドライバー、技術者が確保できないために事業継続を断念するケースや、キーマンの離職によって業務が停滞し倒産に至るケースが急増している。
③後継者不在
経営者の高齢化に伴い、黒字経営でありながらも後継者が見つからずに廃業・倒産を選択せざるを得ない「大廃業時代」が現実化している。
特に「人手不足倒産」の増加ペースは著しい。建設業、物流業、訪問介護・飲食店などのサービス業を中心に、過去最高水準の推移を見せている。従来であれば「景気が悪化すれば失業率が上昇し、人手不足は解消する」というのがマクロ経済の通説であった。しかし、現状の労働市場では景気の波動とは無関係に構造的な人手不足が定着している。

労働需要の引き締まりを示す不変の指標が「失業率」と「有効求人倍率」である。通常、景気後退局面では失業率が上昇するはずであるが、現在の日本においては景気の緩やかな変動にかかわらず、完全失業率は2%台半ばの歴史的低水準に張り付いている。これは、市場から労働力の供給自体が物理的に制約されていることを意味する。

こうした状況下で企業間に生じているのが、「賃上げ格差」による人材の争奪である。
大手企業や高付加価値型ビジネスを展開する企業が積極的なベースアップや初任給の引き上げを実施する一方で、粗利率が低く価格転嫁力の弱い中小・零細企業は賃上げ原資を確保できない。その結果、以下のような負のスパイラルが発生している。
ステップ1:競合他社や他産業への人材流出。
ステップ2:残された従業員の業務負荷増大とエンゲージメント低下、さらなる離職。
ステップ3:求人を出しても応募がなく、採用コストのみが跳ね上がる。
ステップ4:稼働率低下・受注辞退による業績悪化と、最終的な倒産・廃業。
労働者はより好条件の職場へと流動化しており、「不況だから人が余る」という状況は期待できない。失業率が上昇しない人材不足の構造的な定着の中では、労働力確保のためには賃金などの労働条件や労働環境の差別化が必要な時代といえる。
※出所:2025年の「人手不足」倒産は過去最多の397件(東京商工リサーチ)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202275_1527.html
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