2026年3月以降、中東情勢の緊迫化により、ホルムズ海峡の通航が事実上制限される状況が続いており、プラスチックやゴムの原料であるナフサの供給リスクが高まっています。政府が「ナフサは不足していない」との見解を示す一方で、消費者や民間企業から先行き不安の声が上がっており、生活必需品の値上げや供給不安、物価高による倒産などもみられます。本稿では「ナフサ供給リスクから読む不動産市況」と題し、3部構成で解説します。
第1部 原油高がもたらすインフレと金利上昇
第2部 緩やかな景気回復下の企業行動と円安
第3部 供給リスクと資本効率をふまえた不動産戦略
第3部では、供給リスクと資本効率をふまえた不動産戦略について解説します。

永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一ライフ資産運用経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
住宅やビルを建てる際に使用される壁裏の断熱材(ウレタンフォームや発泡ポリスチレン)、配管(塩化ビニル管)、外壁の塗料や防水材、ユニットバスやキッチンの樹脂パーツなど、あらゆる建材がナフサ由来である。
原油高による物流費・エネルギーコストの上昇に加え、ナフサ由来の建材が例えば断熱材で40%超の値上げ、また大手メーカーによる受注停止・納期遅延などの影響で、建築費・大規模修繕費はかつてない高水準へと高騰している。これにより、建設業、特に木造建築工事などの中小工務店が物価高倒産に至る事例もみられる。

建築費の見通しが立たない状況下では、不動産デベロッパーやハウスメーカーは新規の分譲マンションや戸建て、賃貸住宅の開発計画を凍結または延期を検討するなど開発に慎重な姿勢となる場合がある。用地を仕入れても建築費の高騰により採算が合わなくなる可能性や、出口である販売価格の引き上げの検討に伴い、一般の実需層の需要減退も懸念され、資金調達含め計画自体の見直しを迫られる場合もある。この「供給サイドの収縮(新規供給減)」は、今後数年にわたり市場の流通量を絞り込む要因となる。

新規供給が絞られ、新築価格が一般の実需層の手の届かない領域へシフトする結果、需要は必然的に既存(中古)物件市場へと流れ込む。
そうなると、新築が買えない層が状態の良い築浅中古に殺到するため、既存物件の価格には強い下支え・上昇圧力がかかる。
一方で、ナフサ供給不安に伴う「修繕費の高騰」は、既存物件の維持管理の難易度を跳ね上げる。適切に修繕積立金が確保され、メンテナンスが行き届く「優良物件」は資産価値を維持・上昇させるが、修繕費を捻出できずに老朽化が進む物件が出てくる可能性がある。
原油高とナフサの供給不安が長期化するリスクを前提とすれば、今後の経済は「コスト高によるインフレ」と「金利上昇圧力」、そして「供給制約型の景気停滞」が交錯する舵取りの難しい局面が続く可能性がある。
こうした事業環境の変化を踏まえると、不動産業・建設業・製造業においては、これまでの「いつでもモノが手に入り、これまでの価格で調達、維持できる」という前提を見直す必要がある。実際、建築費の高騰や供給制約を背景に価格上昇が続く不動産市況では、一定の資本力を有する購入者が、将来のコスト上昇を見越して早期取得を志向する傾向がある一方で、不動産の購入自体を断念する層も出てきている。投資用・事業用不動産はもちろん、企業用不動産を保有する法人においては、サプライチェーンの複数化を踏まえて建材や仕様の早期確定が求められる。また、余裕をもった資金計画や修繕計画の見直しを適宜行うことが重要である。さらに、不動産を保有維持し続けるか、不動産の売却するかについても収益性を踏まえた柔軟な意思決定が求められる。すなわち、保有する不動産に修繕維持コストを投下することが収益性に見合わないと判断し、他に注力すべき収益性を見込める事業や用途がある場合は、価格上昇に伴う不動産の含み益を顕在化させ、その売却益を本業に再投資することも有効な選択肢の一つとなる。このように「供給不全リスク」を織り込んだ不動産戦略は、企業の財務健全性の維持や資本効率の向上に寄与する重要な経営要素となる。
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