ピケティは『21世紀の資本』の中で、資産を「持つ者」と「持たない者」との間で格差が拡大していくと述べています。資産形成において不動産投資がなぜ重要なのか、「ピケティ『21世紀の資本』と不動産投資」と題し、以下の3部構成で解説していきます。
第1部 資本主義と格差
第2部 日本の格差是正
第3部 インフレに強い資産形成
日本で不動産投資を行うことは、インフレに強い資産形成という観点から、投資家にとって非常に大きな意義があります。第3部では、賃金、不況、インフレといったマクロ経済環境を踏まえながら、日本での不動産投資が、資産形成にとって重要な戦略であることについて解説します。

永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
不動産はインフレに強い実物資産である。日本の賃金が物価上昇に追いつかない状況が続く中、不動産は価値が目減りするリスクが低いとされている。というのも、インフレが進むと、物価の上昇に伴い、賃料も上昇する傾向がある。これにより、不動産投資家は賃料収入(インカムゲイン)の増加を通じて、物価上昇による購買力低下を補うことができる。
収益還元法による不動産評価の他、積算法による不動産評価においても、建物自体の価値は減価償却で下がるが、その一方で土地の価格はインフレの影響を受けやすく、総体としての不動産の資産価値(キャピタルゲイン)も中長期的に上昇する可能性がある。
不況下でも不動産投資は安定した収益源となり得ることも重要だろう。というのも、住居は生活に不可欠なため、株式など他の投資商品と比べるとボラティリティが低く価格が安定しているという特徴がある。これにより、不況下でも安定した賃料収入を得ることができ、投資家の経済的基盤を支えることになる。

加えて、日本の不動産市場には他国にはない独自の魅力があるとされている。というのも、人口減少が進む一方、東京圏や大阪圏などの都市部には依然として人口が流入しており、賃貸需要は堅調である。地方の不動産は難しい面もある一方、都市部の優良物件は安定した収益を見込みやすくなっている。
また、金融機関から融資を受けて不動産を購入することで、自己資金にレバレッジをかけたリターンを目指せる余地がある。こうしたレバレッジ効果は、依然として名目経済成長率に対して金利が低い日本において特に魅力的となっているといえよう。日本の低金利環境は、融資を利用した不動産投資の収益性を高める大きな要因となる。低い金利で借り入れを行い、賃料収入で返済を進めることで効率的な資産形成がしやすい環境にある。
投資家が不動産などの資産形成を行うことは、単に個人的な富を増やすだけでなく、社会的な意義も持つだろう。というのも、投資された資本は、新たな建物の建設や既存物件の改修を通じて、建設業や関連産業に雇用を生み出し、経済全体を活性化させる役割を果たすことなる。
投資家は、経済的なリスクを負って不動産を取得し、その対価として収益を得ることになる。こうした行動は、市場経済において、リスクを負うことによって社会に価値を提供し、その対価を得るという資本主義の原理に則った行動そのものである。
以上の観点から、不動産投資はピケティが指摘するr>gの法則を体現する強力な資産形成手段といえよう。特に日本では、賃金が伸び悩む一方で物価が上昇する実質賃金マイナスリスクがあるため、インフレヘッジとして不動産に投資する意義はより大きくなるだろう。安定したキャッシュフローやインフレ耐性、そしてレバレッジの活用は、投資家が経済の変動に対応し、自身の富を効果的に守り、増やすための重要な戦略となりうるといえよう。
※出所:トマ・ピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房、2014年)
※r = return on capital(資本収益率)
※g = economic growth rate(経済成長率)
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