2025年トランプ関税によって、世界経済、日本経済の行方が注目されています。国内景気は回復持続するのか、「2025年トランプ関税と日本経済」と題し、以下の3部構成で解説していきます。
第1部 経済指標から読む相互関税
第2部 米中関係とアメリカ経済への影響
第3部 日本経済への影響
相互関税が貿易および市場に与える影響は多岐にわたります。第1部では、経済指標から読む相互関税について解説します。
永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
相互関税とは、特定の国が貿易相手国に課す関税率を、その相手国が自国に課す関税率と同水準に引き上げる政策である。貿易不均衡の是正や国内産業の保護を目的とするが、時には減税の財源確保や交渉カードとして用いられることもある。
相互関税が導入されると、関税が課される品目の輸入価格が上昇する。これにより、以下の影響が生じるといえよう。
(1)貿易量の減少
輸入品の価格上昇は、消費者の購買意欲を減退させ、輸入量を減少させる。同時に、報復関税が課されることで、輸出も減少する。実際、前回トランプ関税時(2018年7月以降段階的に対中関税を発動)の日本における輸出数量指数を見ると、中国向けを中心に明確に減少している。こうしたことから、今回は米国が日本に直接相互関税を課すため、米国向けも含めて日本の輸出数量指数が大きく低下することが予想される。
(2)サプライチェーンの再編
関税のコストを回避するため、企業は生産拠点を関税の影響を受けにくい国へ移したり、原材料の調達先を変更したりする動きが加速するだろう。これは、国際的なサプライチェーンの再編を促し、一部の国や地域においては新たな投資機会が生まれる可能性もあるが、短期的には混乱とコスト増を招く可能性には注意が必要だろう。
相互関税は、金融市場や実体経済にも広範な影響を及ぼす。
(1)株式市場への影響
今回も関税導入の発表は、企業業績悪化への懸念から株式市場全体にネガティブな影響を与え、主要株価指数が下落する傾向が見られた。特に、関税の影響を受けやすい輸出依存度の高い企業や業種(自動車、ハイテクなど)の株価は大きく下落する傾向があった。
ただ前回を振り返ると、2018年第4四半期にかけて追加関税の影響が実体経済に波及することで、FRB(The Federal Reserve Board:連邦準備制度理事会)の「利上げ打ち止めからの利下げ観測」が強まったことで株価は反転したことから、今回も年度後半にかけて実体経済の悪化が顕在化すれば、FRBの利下げや日銀の利上げ打ち止め観測が強まり、株価が上昇トレンドに転じることが期待される。
(2)為替市場への影響
米国は、貿易不均衡の是正を狙って自国通貨安を志向する場合がある。一方で、報復関税などにより貿易量が減少すると、為替相場は不安定になり、今回の追加関税発動以降の米ドルのように特定の通貨が売られる圧力にさらされることがある。
前回を振り返ると、2018年第4四半期にかけて追加関税の影響が実体経済に波及することで、FRBの利上げ打ち止めからの利下げ観測が強まったことでドル安が加速したことから、今回も年度後半にかけて実体経済の悪化が顕在化すれば、FRBの利下げ観測が強まり、もう一段の円高に振れることが予想される。
(3)物価への影響:インフレ圧力低下
トランプ関税は景気先行き懸念に伴うドル安や商品市況に加え、貿易市場での米国向け輸出品のだぶつきなどにより、CPI(Consumer Price Index:消費物価指数)などのインフレ率を押し下げる可能性がある。これにより、消費者や企業の購買力が上昇する需要増圧力と、コスト減による値上げ抑制圧力が同時に発生する可能性が高まる。
(4)経済成長への影響:GDP成長率の押し下げ
関税による貿易の減少、消費の減退、投資の抑制は、実質GDP成長率を押し下げる要因となる。前回のトランプ関税時には、直接日本に追加関税が課せられていないにも関わらず、最大の貿易相手先である中国向けを中心に輸出が減少したことから、2018年11月から日本経済は景気後退局面入りしたため、今回も景気後退の可能性が予想される。
また、追加関税は輸出機会を減少させるため、企業の売上高や経常利益を悪化させる可能性があり、これにより倒産件数が増加する可能性も指摘される。
さらに、景気悪化や企業の収益悪化は、雇用に悪影響を及ぼし、失業率を押し上げる可能性もある。
相互関税は、一国だけの問題にとどまらず、グローバルな貿易システムとサプライチェーンに大きな混乱をもたらす。短期的には、関税導入国の株価下落、物価上昇、経済成長の鈍化といった負の影響が顕著に現れることが、前回のトランプ関税時における各種経済指標の動向から確認される。長期的には、サプライチェーンの再編や新たな貿易関係の構築が進む可能性もあるが、その過程で生じるコストや不確実性は、世界経済全体のリスクを高める要因となろう。
経済指標は、これらの影響を定量的に把握し、政策決定や市場の動向を分析する上で不可欠なツールとなる。相互関税が発動されたことにより、貿易や株価、為替、物価、GDP成長率、企業業績、失業率などの多角的な指標を注視し、その複合的な影響を評価することが重要といえよう。
本コラムの記載は、掲載時点の法令等に基づき掲載されており、その正確性や確実性を保証するものではありません。最終的な判断はお客様ご自身のご判断でなさるようにお願いします。なお、本コラムの掲載内容は予告なしに変更されることがあります。
まずは、お気軽にご相談ください。