2023/12/19 経済

日本経済と金利|第2部 マネーのグローバル化とインフレの連動性

長期金利が上昇し「不動産業界に及ぼす影響は?」「長期金利とインフレの関係は?」「日銀の金融政策によって景気はどうなる?」という質問も少なくありません。

日本経済と金利|第1部 長期金利上昇と不動産業界への影響
日本経済と金利|第2部 マネーのグローバル化とインフレの連動性
日本経済と金利|第3部 日銀の金融政策と景気への影響 
以上3部構成で、長期金利上昇が日本経済に及ぼす影響について読み解きます。

今回は、第2部としてマネーのグローバル化による長期金利やインフレの連動性について掲載します。

永濱 利廣

永濱 利廣(ながはま としひろ) Toshihiro Nagahama
株式会社 第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

長期金利とインフレ

長期金利とは、期間が一年以上の金利のことであり、具体的には長期債券の利回りや長期貸出金利等がある。長期金利の代表的な指標となるのが、発行量が最も多く流動性の高い「新発10年国債利回り」であり、日本相互証券から公表される。なお、金利と債券価格は、金利が下がれば債券価格は上がり、金利が上がれば債券価格は下がるという関係にある。例えば、ある時点で発行された額面100円の債券の利回りが1%だった場合、その債券に100万円投資をすれば毎年1万円の収益が得られることになる。しかし、その後の金利が上昇し、新たに発行される債券の利回りが2%となれば、100万円を投資することにより1年後には102万円の価値になる。このため、利回り1%の債券を額面100万円で買う人がいなくなってしまうことから、利回りが1%の債券は投資収益が2%の債券に投資した場合と等しくなる99円にまで価格が下がることになる。

インフレとの関係としては、基本的にインフレ期待が低下しているときには長期金利が下がり、インフレ期待が上昇しているときには上昇する。事実、2016年以降に導入されたマイナス金利→イールドカーブコントロール政策により、長期金利の水準は長らく±0.2~0.3%の水準で推移してきた。しかし、2022年度以降は世界的な40年ぶりのインフレ等により海外の長期金利が上昇し、2022年末以降にはイールドカーブコントロールの修正もあったことから長期金利は1%に迫る水準に達している。

日本のインフレ率と長期金利

長期金利の変動要因「景気要因」「物価要因」「為替要因」「海外要因」「需給要因」とは

長期金利の変動は期待インフレだけで決まるほど単純ではない。具体的に長期金利の動きを決める要因としては、一般的に「景気要因」「物価要因」「為替要因」「海外要因」「需給要因」の5つが考えられる。

まず「景気要因」としては、景気が過熱すれば、①日銀がそれを抑制しようと短期金利を引き上げる、②銀行が企業の資金需要の拡大に応じて資金を貸し出しに振り向けること等のために手持ちの国債を売却する、こと等により長期金利は上昇する。逆に景気が悪くなれば、①日銀が景気を刺激しようと短期金利を引き下げる、②企業の設備投資等の資金需要が減退することにより銀行の余剰資金が国債購入に向けられることなどから長期金利は低下することになる。 また「物価要因」としては、インフレ率が低水準にあると、物価の安定を金融政策の目標とする日銀は短期金利を下げると予想されることから長期金利は低下する。逆にインフレ率が加速するような状況では日銀が短期金利を引き上げやすくなることから、長期金利は上昇することになる。

続いて「為替要因」としては、円高が長期金利の下落要因、円安が長期金利の上昇要因となる。具体的には、円高になると輸出産業の多い日本の景気を悪化させる一方で、輸入品の価格下落により物価下落を招くのに対して、円安は将来の景気回復要因となる一方で、輸入品の価格上昇を招くことなるためである。

更に「海外要因」としては、海外の金融緩和や金利の低下が起こると、相対的に日本の債券を買った方が得をするため、国内債券への投資が増えて長期金利の低下要因になる。逆に海外の金融引き締めや金利の上昇は、海外の投資家が日本の債券を売る材料となり、国内債券への投資減少を通じて長期金利の上昇要因となる。

それ以外にも「需給要因」として、債券の発行量や、日銀の国債買い入れ額が変化すると、需給面から債券相場のかく乱要因となり、長期金利が変動することがしばしばある。

以上のように、長期金利の変動は一般的に金融市場における将来のインフレ率や経済成長の見通し、海外の経済動向等を反映して決定される。従って、長期金利を見る上では、その時々のニュースが様々な思惑を呼び、将来に関する期待要因でデータが振れることから、これらの指標の短期的な動きを過大評価しないように注意する必要があるだろう。

なお、その長期金利が景気へ与える影響としては、金利が下がれば企業は資金調達しやすくなり、逆に上がればしにくくなることから、銀行の貸出を通じて、世の中のマネーの量が増えれば景気が上向きになり、逆に減れば景気を冷却することになる。ちなみに、長期金利は将来の短期金利やインフレ率、投資の収益性の期待によって決定されることから、長期金利から短期金利を差し引いた「長短金利差」は将来のインフレ率や収益期待を示す指標として、景気動向指数の先行系列として採用されている。


本コラムの記載は、掲載時点の法令等に基づき掲載されており、その正確性や確実性を保証するものではありません。最終的な判断はお客様ご自身のご判断でなさるようにお願いします。なお、本コラムの掲載内容は予告なしに変更されることがあります。

お問い合わせ Contact us

まずは、お気軽にご相談ください。

お電話でのお問い合わせ

0120-921-582