エリザベス女王を始めとするイギリスの王室は資産家としても有名です。特に不動産関係は資料が開示されているためによく話題になり、その評価額の総額は141億ポンド(2.7兆円)だそうです。特に有名なのはロンドンのリージェント・ストリートで、イギリス王室は世界でも有数のこの高級商店街を丸ごと全部、所有・賃貸しています。他にも多数のショッピングセンターを持ち、さらに農地や牧草地、森林他も所有しています。
よく訳がわからない資産が「シーベッド」で、イギリスのほぼ全体をぐるっと回した海岸の波打ち際から22km沖までを指し、この部分は王室が所有する資産となっているのです。
これらのいろいろな不動産のすべてを管理する専門の会社が「クラウン・エステート」です。同社が巨額の賃貸収入等から維持管理費を差し引き、いったん財務省に納入します。財務省はこれらを中心に日本の宮廷費と似た「ソブリン・グラント」を支給する形をとっています。
このように政府を迂回して「宮廷費」を渡す仕組みとなったのは1760年で、日本の江戸時代中期です。その後、改正は何回か行われていますが、基本的な形は変わっていません。
しかしさすがに260年も経過すると時代にそぐわない部分も出ていて、今後10年計画くらいで抜本改革しようという機運が生じています。
例えば先ほどの「シーベッド」ですが、以前は不動産としてはどうでもよかったのだと思います。ところが昨今の洋上風力発電所の広まりで、シーベッドが巨額の収益を生み出す可能性がある状態になりました。クラウン・エステートは今年、洋上風力発電所の建設権をオークションに出し、今後10年で90億ポンド(1.4兆円)の収入を受け取る見込みです。
現行制度ですと、イギリス全体の洋上風力発電所の候補地がすべて王室の権益になってしまうわけです。いくらなんでもこれはまずいでしょう。
また、稼ぎ頭の商業ビル群があまりに老朽化、陳腐化してしまいました。このままでは競合物件に負けてテナントが引越ししかねません。
王室が持つ宮殿や城としてはバッキンガム宮殿、ケンジントン宮殿、ウィンザー城等が有名ですが、その他にも大小のこの手の建物を多数所有しています。こんな巨大で大昔の石造りの建物は冷暖房費や電気代だけでも気が遠くなります。エリザベス女王は照明の消し忘れにうるさいそうですが、その心境は理解できます。
改革が必要だとの認識がされてはいるものの、まだ具体的な方向性は明らかにされていません。
(ポンド=153円 2021年7月6日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清