住宅を買って短期で転売し利ザヤを狙うことを「フリッピング」と言い、アメリカでは中古の一戸建て住宅でよく見られます。フリッピングは2000年代前半の住宅ブームの時にも多発しましたが、この時の主役はサブプライムローンを利用した個人投資家でした。
今は個人投資家よりも企業によるものの方が目立ちます。その中でITの活用に長けた、いわゆる「不動産テック(IT不動産会社)」が行っているフリッピングをご紹介します。
一種のはやり言葉に、「iBuying(アイ・バイイング)」があります。不動産売買手続きはアメリカでも「紙の書類」のかたまりですが、部分・部分のIT化が進みました。それらをつないでクリック一つで売買手続きが完了するようにソフトを組んだ不動産テックたちが登場、このような不動産(住宅)の購入の仕方が「iBuying」と呼ばれています。
一方で物件情報のオンライン化が格段に進み、価格査定の精度も高くなりました。アメリカの中古一戸建て住宅は郊外の広大な造成地内に建つ画一的な物が多く、アルゴリズムで高い精度の査定価格が得られます。日本の中古の一戸建ての多様さと事情が異なります。
不動産テック各社は「市場に割安に出た物件」を直ちに捉えて買い、多少の修繕や手直しをしてから売却(フリッピング)します。中には「買いから売りまで」をすべてコンピュータに自動的にさせようと試みている、横着な不動産テックもあるようです。
iBuyingによるフリッピングの大手にはジローやオープンドア、オファーパッドがあります。しかしフリッピング事業で安定的に利益をあげている不動産テックはまだありません。
最近、iBuyingにより購入された物件のフリッピング先に「戸建て住宅レンタル」と呼ばれる機関投資家があることがわかりました。戸建て住宅レンタル各社は大変な数の住宅を保有・賃貸しているのと同時に、常時、市場から仕入れています。しかし両者のような組み合わせは問題だとの声があります。
めぼしい新規の売り物件がジローのサイトに入った時に、一般公開される前にジローがiBuyingで先回りして買い、それをフリッピングして戸建て住宅レンタルの会社に売っているわけです。ジローとしては直売ですので仲介手数料が不要になりますが、これでは一般の購入希望者は物件情報に触れることすらもできません。
今のところ、不動産テックと戸建て住宅レンタルが結びついてフリッピングされた例は、まだ多くありません。「iBuyingで先回りして購入して転売する」というのは、株式市場で大型コンピュータを用いて行われている「高速取引」とそっくりな面があります。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清