アメリカの、一戸数十億円という「スーパー豪邸」が近年、大きく値上がりしている事は明らかなのですが、統計的に意味がある数字としてはうまく把握できません。サンプルの絶対数が少ない上に、個別性、特殊性が高すぎるからです。
その個別性、特殊性というのは、例えば「床面積が1,750坪で、フルバス(トイレ+浴槽)が38ヶ所もある」「プロによる料理ショーを楽しむためのものも含めキッチンが4ヶ所ある」「東京都と同じ広さの大牧場とその母屋」といった具合で、このようなものは統計には馴染みません。
「5億$(545億円)」として売りに出ていた物件がとうとう売れず、「1.1億$(120億円)」の借金のカタにとられたという騒ぎが3月に起きました。いくらに値付けしていれば売れていたのか、誤差は1億$(109億円)単位でしょう。これも統計では処理できません。
アメリカ人が好きな住宅価格の上昇率の測り方に「リピーティッド・セールス法」というものがあります。以前、売買された物件が再び売買された際に(リピーティッド・セールス)、前回はいくらだったが今回はいくらなので「年何%の上昇だ」と計算します。単純きわまりない計算方法ですが、日本と違って中古住宅に経年減価がないのでこれで良いわけです。
一般の住宅とは違ってスーパー豪邸でこのような計算方法が適用できるケースはあまり多くないのですが、最近1件発生しました。今年4月に4,700万$(51.2億円)で成約したビバリーヒルズのスーパー豪邸の売主がこの物件を買ったのは2019年の5月で、その時の価格が4,250万$(46.3億円)だったのです。23か月間で10.6%の値上がりです。
ニューヨークでは、豪邸と評価される「タウンハウス」も明らかに大きな値上がりをしていますが、取引件数が少なく、率が計算できません。これらのタウンハウス・スーパー豪邸は、5-6階建ての重厚な石造りで横幅が広く、各住戸は1階(地下)から最上階までが縦方向に伸び、道路に面した玄関と小さな庭がある「連棟式テラスハウス」の一種で、立地が非常に重要視されます。築年は驚くほど古く、去年の3月に2,500万$(27.3億円)で出た物件は1830年代(天保年間)の築、今年の3月に6,000万$(65.4億円)で成約した物件は1880年代(明治10年代)の築です。これらの価格は明らかに上昇しているのです。
もっともニューヨークにはそこまでではないランクのもっと安い(一般の住宅よりは高い)タウンハウスもあり、それらもこの1年間で値上がりしました。タウンハウス人気の最大の理由は、「広い上に都心に近い」ことです。自宅での「オフィス」や「仕事部屋」のニーズが増え、「子供部屋」を準備しておきたい、親や親戚、あるいは知人などの「来客を泊める部屋」が欲しい、といった様々な欲求が、今回の新型コロナでまとまって吹き出した感があります。
(ドル=109円 2021年5月6日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清