新型コロナでマンハッタンから逃げ出した人がどこへ向かっていたかが、携帯電話のデータにより分析されました。フロリダ州へ逃げたというケースはよく話題になり、大変目立ちましたが、実際には同州のマイアミとパームビーチの合計で4.4%に留まりました。
最も移住先として多かったのは、マンハッタンのごく近傍の地区5ヶ所で、合計37%に上りました。東京で言うと「山手線の内側に住んでいた人たちが、世田谷区から厚木市辺りへ移った」という距離感です。もっと遠くという中では別荘地ハンプトンズがあるサフォーク郡の14.6%が最も多く、これは「東京から軽井沢へ」という感じです。
ニューヨークからフロリダに向かった人間が実際の比率以上に目立ったのは、富裕層・高額所得者が多かったからです。最大都市のマイアミよりは、数十億円という超豪邸の売買が日常茶飯で発生したパームビーチの方が耳目を引きました。
パームビーチはマイアミの北約100kmにあり、定住人口は1万人なのですがシーズンになるとこれが3倍に膨らみます。トランプ前大統領の別荘マー・ア・ラゴがあり、直近では著名経営者のラリー・エリソン氏が8,000万$(88億円)の豪邸を買っています。
ニューヨークの富裕層がフロリダを好む理由は、冬でも暖かいことと、州の所得税がないことで、後者は仮に年収を2,000万円とすると、税金が200万円ほど安くなります。避寒の時にだけ来る「スノーバード」たちが、今後は定住してお金をたくさん落としてくれそうだと期待されたわけです。
ところが引っ越し会社や郵便局への転送届のデータによると話が少々違います。昨年のフロリダ州への転入者数と転出者数はほぼ同じで、さらに転出者には中所得者が多いという傾向が見られます。フロリダのどこが住みづらくて出ていくのでしょうか。
まず夏の暑さですが、「酷暑」の度が過ぎます。ハリケーンも並ではありません。2017年にフロリダを直撃したカテゴリー5の「イルマ」は最大風速が81mで、土台ごと吹き飛ばされた住宅までありました。物価等は安いのですが給料も安い中で住宅費は高騰しました。
高級レストランやセレブ向けの高級品を売っている店もありはしますが、富裕層にとってはチョイスがありません。ゴルフもビーチも「毎日、それしかない」という状態だと飽きるでしょう。ミュージアムやシアターもない、いわば文化不毛な地なのです。
今回、「移住」した人間の多くは、ニューヨークにも住宅を持ち続けています。地元の不動産業者の中には「彼らのフロリダ暮らしはもって5年だろう」と見る人もいます。
(ドル=110円 2021年4月7日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清