不動産を登記する時に支払う手数料(税金)は、国際的には一般に「スタンプ税」と呼ばれています。日本の登録免許税なり印紙税と似ていますが、大きく違う点があります。
多くの国で税額が日本よりかなり大きい点が違います。また住宅市場への介入のために政策的・機動的に用いられる点も違います。例えば住宅価格が急騰気味の時に税率を倍にしたり、外国人による購入について税率を高くしたりします。市場に即効的に効く政策手段です。
イギリスでは昨年春から始まった新型コロナが今も猛威をふるっています。同国でもスタンプ税は高額で、ロンドンでは一般の住宅でも200~300万円でした。しかし昨年の7月からこのスタンプ税に大胆な政策が取られました。
2021年の3月末までのクロージングについてスタンプ税を非課税としたのです。非課税限度はありますが、一般の住宅の価格帯ならほぼこの範囲内です。政府は新型コロナによる景気の急落に対して、住宅市場をストッパーとして使うことにしたのでした。
これも市場に非常によく効きました。イギリス全体の住宅価格は昨年11月時点で前年比7.6%上昇し、景気が後退する中で、住宅価格は上昇したのです。但しロンドンだけは状況が複雑で、広い家が求められて郊外部は好調だったのですが、中心部、特に高額物件は不調でした。ところが最高級住宅地のケンジントン、チェルシー等の非常に高額な物件は大きく値上がりした取引が起きています。ロンドンの市場は現在、かなり緻密に見る必要があります。
しかし昨年12月にはイギリス全体で住宅取引が軟化を始めています。「今年3月末までのクロージング」から逆算がされ、取引の山場はもう過ぎたのかも知れません。
今後、どうなるかですが、3月末のスタンプ税の時限的非課税の終了と同時に一次取得者向けの住宅購入支援制度も縮小される事が以前から決まっており、これらは市場にはダブルパンチです。新型コロナとブレグジットもマイナス要因です。住宅ローン金利はこれ以上下がる余地は少なく、むしろ上昇見込みです。
これらからは住宅市場の下落が予想される事になりそうですが、全く別の見方をする人もいます。新型コロナ対策の必要から、イギリスを含めて世界の中央銀行はマネー・サプライを非常に増やしましたので、インフレが発生すると見込んでいる人がいるのです。その場合、不動産はインフレヘッジに向くので、住宅価格は上昇するという予想です。
こちらの予想が当たれば、イギリスの住宅市場は4月以降にいったん小幅な落ち込みをした後に、上昇することになりそうです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清