一寸先は闇ではありますが、今年の世界の不動産市場を西まわりで順に展望します。
香港では騒乱で観光客が激減、売上げ歩合賃料の減少で店舗用不動産が下落しました。ホテルは稼働率が急落しましたが目立った売買がありません。香港市民のほとんどは香港に住み続けるつもりなのとローン規制の緩和のおかげで、住宅の売れ行きは堅調です。
中国ではビルが大幅な供給過剰で工事が停止したプロジェクトが多発、一方で住宅はなだらかに減速中です。最大の問題は金融システムで、当局がバブルにより生まれた過剰な債務の削減を図っているためにあちこちで歪が顕在化、デベも影響を受けています。
シンガポールでは国民の8割は公営住宅に住んでいて、民デベが供給しているのはラグジュアリーマンションだけです。この在庫が4年分もあり不振に陥っています。最近一番上のクラスに中国人の買いが戻り始めましたが、今年はこれが広がることが期待されます。
オーストラリアの住宅市場は2019年の春に市場が底入れし、秋にはバブル期並みの価格上昇率となっています。今年も少なくとも当面は今の回復傾向が維持されるでしょう。
イギリスはブレグジットの方針が固まり、投資家が嫌う「不確実性」が固まりました。トップエンドの住宅市場から良くなりそうです。買い控えで積みあがった国内投資家と、ポンド安で価格に魅力を感じる外人投資家とからの買いが期待できるのです。ビルはブレグジット懸念から着工が手控えられていたために新規の供給量が減っていて、需給の関係でリーシングが好調という変な状態です。新規供給には何年かかかるので今後も好調が続くでしょう。反対にモールや実店舗はオンライン通販に押されてますます苦しくなりそうです。
アメリカは全般的に好調です。一般に大統領選が終わるまでは景気を悪くさせることはないので、不動産市場も今年はその恩恵を受けるでしょう。特に好調なのは物流倉庫です。例外なのはモール用不動産とニューヨークのラグジュアリーマンションです。後者は供給過剰がはなはだしく、大幅値引きにコンセッション(販促のおまけ)を目一杯つけてやっとなんとか客が付くという状態です。過剰在庫はなかなか減りそうにありません。
日本の不動産市場の話が世界で語られることは滅多にありません。たぶん論評に値するデータがないためでしょう。新築も中古もタイムリーなデータがなく、住宅ローンの申し込み件数も融資実行件数も集計・公開されていません。公示地価も路線価も経済データとしては信頼されておらず、新設住宅着工件数さえも話題になりません。日本では行政も民間も「目隠し」をしたまま走っているかのようなものなのです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清