WeWorkは9月にIPO・新規上場を予定していますが、評価が大きく分かれています。端的に言えば株価の問題です。ソフトバンクによる企業評価額は470億$(5.03兆円)ですが、同業他社と比較するとせいぜい数千億円なので、評価額に10倍もの開きがあるのです。これは同社を「IT会社」と見るか、「不動産会社」と見るかによる違いでもあります。
先日アナリスト向けミーティングがありましたので、本稿を皆様がご覧になる頃には専門家からの評価も出ているかもしれません。
WeWorkの当初のビジネスモデルは「コワーキング」と呼ばれていました。広い部屋に大きな机を用意し、会員はPCを持ち込んで空いている席で仕事をします。ソファやジュースバーにも十分なスペースが割かれ、会員同士の交流を図る仕掛けとしました。
机やキャビネを備えた数人用の小部屋も好評だったので、このような部屋を中心にして共用部にソファやジュースバーを設けるレイアウトの拠点も増やしました。これらは「シェアド・オフィス」と呼ばれます。簡単に借り増しや広い部屋への引っ越しができます。
通常のオフィスと同程度の多人数を収容する部屋もあります。これが一般のオフィス賃貸とどう違うかといえば、最大の売りは契約のフレクシブルさです。英米ではオフィスの賃貸契約は10-20年が標準ですが、WeWorkは最低2年からなのです。
こういった貸し方は、総称して「サービスト・オフィス」とも呼ばれます。テナントはオフィス開設のために必要なエネルギーを極力減らせるわけです。
同社が強調したのは、オフィスで働いている人の働き方をデータとして集めて分析し、新しいオフィス像を創造するという主張でした。自分たちを「IT企業」だとし好んでアマゾンと比較しました。その結果、当初は「IT企業」の括りに入れられていたわけです。
WeWorkに大きなケチを付けたのはサウジとアブダビでした。両国からの異議申し立てにより、同社は「IT会社ではなく不動産会社だ」という認識が世界で広まってゆきます。
いかに規模拡大を優先しているとはいえ、赤字を続け黒字転換のめどが立たないことも大きなマイナスです。2018年度の赤字は19.3億$(2070億円)と毎年拡大する一方で、2016年以来の赤字額は累積で30億$(3210億円)以上に達するのです。
CEOであるニューマン氏個人についてもいろいろな問題が指摘され、メディアでの彼の評判は芳しくありません。それはともかく、従前、同社の株価を決めていたのはソフトバンクでしたが、上場以降は株価は投資家の判断で決まることになります。
($=107円 2019年8月6日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清