世界最大の民泊仲介会社のAirbnbはホテル等と同様、当初は新型ウイルスの直撃を受けたのですが、その後胸のすくような大逆転をしました。この経緯から見てみたいと思います。
そもそも同社には新型ウイルス以前からいろいろ問題がありました。赤字の拡大やカナダでの「パーティハウス」での銃乱射により5人が死傷するといった問題、さらには都市によっては賃貸住宅の家賃の上昇を引き起こし、各地で市役所と対立していました。
これらの問題に新型ウイルスが強烈な追い討ちをかけたわけです。3月には利用客が激減しキャンセル料の一部をAirbnbが負担、4月には不利な条件で資金調達、5月には25%の人員削減を実施し、もしかするとAirbnbは危ないのではという話まで出るほどでした。
ところがこの時、Airbnbはすでに気がついていました。「自宅からさほど遠くない所で宿泊する人」が増えているという現象で、これは後に「ステイケーション」と呼ばれる旅行のスタイルです。
Airbnbはただちにプログラムを改変し、「おすすめ」として検索者の自宅から200マイル~300マイル(約320~480km)以内の「近場の候補」が画面の一番目立つ場所に表示されるようにしたのです。
この変更が絶大な効果を呼びました。さらにホテルだと他人との接触での感染の可能性がありますが、Airbnbならその心配がありません。こうしてステイケーション需要を取り込み、予約数は5月が前年比70%ダウンだったのに6月には30%ダウンまで急回復、8月は同社のブッキングの半分以上が自宅から300マイル以内という状態になりました。
この劇的な回復で、棚上げにされていた大型IPO計画が復活、年内に実施しそうです。同社には「ストックオプションの行使期限」という特別な事情もあります。創業の初期のスタッフの行使期限が年内なので、これに間に合えば彼らには大きく報いることができます。
Airbnbはストックオプションをスタッフに盛大に付与し続けてきました。IPOに至ればこれらは莫大な個人資産になるので、スタッフの本気度も違っていたはずです。今回の危機対応やIPOへの準備の素早さは、このおかげという面があるのかも知れません。
(11月16日追記:Airbnbの上場が準備が大詰めだが、日程等はまだ発表されていない。一説によれば大統領選が落ち着くのを待っているとのことだ。上場規模は300億$〈3.2兆円〉を超す、アメリカで今年最大のIPOとなる見込みである。)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清