マンハッタンから多くの人が引越しをしていて、旧約聖書にならい「エクソダス(大脱出)」と呼ばれています。新型コロナウイルス問題で「密」が嫌われたことや在宅・リモートワークが認められたことがきっかけです。マンハッタンの住宅は日本流に言うと1LDKや2LDKも多く、狭さには以前から不満が持たれていました。
引越し先は大きく分けると、別荘地と郊外です。
別荘地の代表格はハンプトンズで、これはニューヨーク市の東側の東西に長い島の奥の部分にある小さな村や集落一帯の総称です。ニューヨークから大体160kmなので通勤圏ではありません。中心の価格帯は100万$(1.06億円)程度ですが、一戸数十億円という豪邸が集まる地区もあります。ハンプトンズでの売買の過去最高額は1.37億$(145億円)で、賃貸の家賃では今年のハイシーズンは月40万$(4240万円)という物件が数十戸ありました。
通勤圏の郊外で最も人気が出たのはニューヨーク州のウエストチェスターです。市の北東の方向へ電車で50分程度、日本人駐在員が多く住み、慶應義塾ニューヨーク学院があります。7月の住宅の売買件数は前年の2.12倍となりました。
ニューヨーク州に隣接するニュージャージー州やコネティカット州等にある郊外部も大人気です。郊外部全体でみると売買件数は44%増加なのですが、場所によっては売り物件に買いオファーが20件以上集まるという、少々異常な状態も起きています。
みなが求めているのは、マンハッタンでは無理だった「子供が遊ぶ庭」や「リモートワークをする部屋」、すなわち「広さ」です。脱出した人は高所得者、イコール高額納税者が多く、ニューヨーク市は税収減で財政難に陥るのではとの心配が出ています。
マンハッタンでは7月の売買件数は前年より56%減となり、価格面では特にラグジュアリーな物件が下落しました。ただし、これらが下落を始めたのは2年前からです。
一方、一般向けの物件はあまり価格下落をしていません。低金利で購入意欲が強いことと、所有者の都心居住への未練が強くて値下げしてまでは売ろうとしないのです。屋外スペースが持てるテラス付きが前年比で5.4%上昇しています。テラス無しでは1.1%下落です。
サンフランシスコも住宅価格が非常に高い都市ですが、中心部からのエクソダスが起きています。しかし、ここでは「この際、生活や人生の本拠を郊外に移そう」という人が多く、ニューヨーカー達の都心居住への未練というメンタリティとは少し異なっています。
(ドル=106円 2020年9月7日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清