不動産会社にとってどの会社が元気かは重要です。例えば「モールの魅力」には「テナント各店の魅力の総和」という面も大きいからです。不振なところが多い実店舗会社の中で、アメリカ最大の家電量販店「ベストバイ」が健闘しています。元気さの理由を見てみましょう。
全米の家電業界の売上げはロックダウンの影響で前年の65%に減少しました。ベストバイも3月に店の売り場を閉鎖しましたが、オンラインで受けた注文は店舗の外にある専用の受け渡し場所で客に渡していました(これは最近、流行の形態です)。このような状態であったのに4月の売上高は前年比でわずか6%しか減少していないのです。
ウォルマートやターゲットの家電売り場と比べるとベストバイの価格は少しだけ高めで、さらに最大の敵、アマゾンには負けています。家電やパソコン、ゲームなどはどこで買っても同じですから、価格で負けるというのは致命的なように思えます。おまけにウォルマートやターゲットは生活必需品も販売しているのでロックダウン中も開いていました。
ベストバイが以前から勝負をかけていたのは、なんと「ショールーム」への投資でした。同時に顧客と店員との人間的つながりが太くなるような手立てにも積極的に投資しました。
同社の顧客サービス制度の中では「ギーク・スクワッド(PCオタク部隊)」が有名です。顧客の家に技術者が訪問して、60-90分をかけて対面で操作等の手助けをします。製品のセットアップや修理、あるいはその家に合わせた家具や家電、器具のレイアウトや選択の相談にも応じます。店舗内で予約制のコンサルティングも実施し、ここでは実物を見ながら使い方の説明も聞けます。「ショールーム」への投資が大きく活きています。
もちろん、これらが有効だったのは長年かけてつちかってきた「ベストバイ」というブランドがあればこそなのですが、ほかの大手小売会社にはブランド力を活かせなかったところが多数あります。シアーズ、トイザラス、フォーエバー21、ニーマン・マーカス、JCペニーなどは大変な知名度がありながら、みな破産申請に追い込まれてしまいました。
ちなみにベストバイにとってこの度の新型肺炎はビジネス面ではチャンスになりました。家の中に閉じ込められた人々が、同社からパソコンやゲームを買ったのです。外食が減って家庭での料理が増えたために小型の調理器具も売れました。さらに同社は昨年、フィットネス用品の販売に力を入れていたのですが、これも運動不足の解消をしたいというニーズから売れました。
顧客とのつながりを大切にしてきたおかげで、ベストバイは逆風をチャンスにできたわけです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清