事業戦略の変化にともなって、所有または賃借で分散していた営業拠点を、所有または賃借で、1つの拠点に統合する場合があります。統合に関しては、2拠点を1つに統合する場合でも十分メリットがありますが、特に子会社、関連会社も含めて、複数の拠点を統合すると大きなメリットがあります。例えば、駅周辺に、グループ企業10社それぞれが事務所を構えている場合で、この駅近に大規模ビルを賃借して10社まとめて入居する、あるいは、駅から徒歩圏内の自社ビルを購入、または土地を購入し、自社ビルを建築して入居することを想定してみましょう。
統合後、所有か賃借かはそれぞれの企業の事情に応じて決定します。統合のメリットは、以下の通りです。
1.コストの削減
小規模のオフィスを多く賃借している場合と大規模オフィスを1カ所借りている場合とを比べると、それぞれの賃料水準によりますが、一般的には、小規模オフィスの実効面積当たりの賃料単価は大きいので、大規模オフィスを一括で借りる方が効率的であるといえます。小規模オフィスでも、それぞれトイレやパントリー、休憩場所などのスペースが必要ですが、大規模オフィスでは、これが共用できるためその分費用が削減できるからです。また、営業所間、関連会社間の取引の場合も従業員の移動コスト(時間と交通費)がかかりますが、これらのコストが節約できます。
2.部門間、関連会社間のコミュニケーション、情報交換の活発化
営業拠点等を統合すると、ビルが異なればなかなか進まなかった部門間、関連会社間のコミュニケーションが促進され、公式のミーティング以外でも交流の場が広がることにより、新しいアイデアが生まれる可能性があります。ただし、関連会社といえども独立性、情報セキュリティに配慮が必要です。
【事例】キリンホールディングス
2013年に東京都中央区新川や渋谷区原宿に分散していた本社機能を、中野区の「中野セントラルパークサウス」に移転し、国内グループ会社17社の本社拠点を集約しました。同ビルの基準階のワンフロアは5057.09平方メートルであり、グループ会社間の一体感の醸成、コミュニケーション向上、シナジー創出促進を図り、また、最新の防災機能を持つ拠点へ移転することにより、社員の安全、事業継続性を確保することが目的でした。
【事例】ソニー
2006年、10数棟に分散していた都内オフィスを、JR品川東口の「ソニーシティ」へ本社機能を集約、再編して、開発機能や子会社も入居しました。本社ソニーシティは、コミュニケーション活性化のための設計が特徴的で、「ソニーシティ大崎(現NBF大崎ビル)」は、研究開発型オフィスで、開放的な「内階段」を持ち、下水処理水を空調用冷却水に利用、壁面にセラミックルーバーを用いた冷却外装システムを採用、また、大容量蓄電池により昼間使用電力を抑制するなど環境に配慮しています。
また、大きな事業環境の変化にともない、定性、定量要因を考慮し、賃借、所有についてバランスを見極めて、不動産取得、処分等の判断基準を社内で定めています。
【事例】キヤノン
研究開発拠点の整備・集約化のため、本社(大田区下丸子)の隣地や川崎市において研究開発施設用地を取得していました。これは株主資本比率が60%を超えていた優良な財務体質が背景にあると考えられます。
【事例】日本通運・ミネベアミツミ
日本通運は2022年(2021年契約)、旧本社をベアリング大手のミネベアミツミに売却し、千代田区に建設した新築ビルに本社や支店を集約しました。ミネベアミツミは、旧ミネベアと旧ミツミ電機の統合を重視し、ミネベアミツミのグループ各社を1棟で使用するため購入したといわれています。
この取得は、不動産ファンドの投資採算価値を上回る価格で取得されたといわれていますが、本建物は、賃貸を想定していない設備仕様や建物構造で、武道場なども併設していました。このような特殊な設備仕様の建物の場合、通常、正常価格を求める鑑定評価では汎用性の不足として減価要因になりえますが、購入者がその施設を前所有者と同様の利用を考えていた場合は、その購入者の取得価格の増価要因にもなるという一例です。
【事例】ファーストリテイリング
2017年2月、ファーストリテイリングは、大和ハウス工業と共同出資した会社が運営する東京都江東区有明に新設した有明倉庫(UNIQLO CITY TOKYO)(延床約112,400平方メートル)の最上階(6F)の約16,500平方メートル(約5,000坪)を有明本部として、ミッドタウンタワー(港区赤坂)から商品、販売機能などの複数の部門を移転しました。社員の働き方改革および顧客ニーズをすぐに商品化できる体制が構築されました。
統合とは逆に、新商品の製造やリスク分散のために工場機能や情報機能施設等を分散したり、情報処理拠点やバックアップ拠点の必要性から、東日本と西日本の両方に拠点を分散している企業があります。
近年特に、地震等自然災害に対する事業継続計画(BCP)の観点から、メーカーが製造拠点を分散させる場合があります。また原料調達先や下請け企業などサプライチェーンの複数化のために、工場や物流施設の立地を分散することもあります。
【事例】富士通
富士通は、福島県伊達市所在の富士通アイソテック(デスクトップPC生産拠点)と島根県出雲市斐川町所在の島根富士通(ノートPC生産拠点)の災害時の代替を検討し、訓練も行い準備を進めていました。東日本大震災で東北地方の生産拠点である富士通アイソテックが被災し生産が停止した際、連絡先調査や被害確認などにおいてもしBCP(事業継続計画)がなかったら、判断が遅れたと考えられ、また、島根富士通での代替生産の開始まで実際は12日間かかりましたが、BCPがなければより時間を要していたと考えられています。