近年、日本におけるメディカルツーリズムは拡大傾向にあり、2025年に12.4億ドルと評価された日本のメディカルツーリズム市場は、年平均28.3%で成長し、2034年には116.2億ドルに達するとの予測※1が示されています。
日本の医療が世界の富裕層から関心を集めている背景には、円安傾向やコストパフォーマンスの良さに加え、以下のような複数の要素が総合的に評価されている点が挙げられます。
医療レベル
ロボット手術、陽子線治療、再生医療など、国際的にも高い評価を受けている先進的な医療技術。
信頼性とホスピタリティ
感染症リスクの管理体制や診断精度の高さに加え、患者に配慮した細やかな対応。
環境との親和性
治安の良さ、清潔な住環境、健康やウェルビーイングに寄与する食文化。
政府においても、日本の先進医療がインバウンド需要を喚起する可能性を有する分野として位置付けられており、メディカルツーリズムに取り組む民間医療機関等への支援が進められています。
こうした市場における先行事例の一つが、東京ミッドタウンクリニックの取り組みです。リゾートトラストグループと三菱商事の連携により、国際基準(JCI認証)に基づく医療サービスと会員制ホテル水準のホスピタリティを組み合わせた医療提供モデル※2が展開され年間5万人以上が受診する人間ドックが注目を集めています。
特に、東南アジアや中国を中心とした海外富裕層を主な利用者層として想定したプレミアム人間ドック、がんゲノム医療、幹細胞治療などの個別化医療は、高付加価値な医療を求めるニーズに対応しています。
メディカルツーリズムの意義は、医療行為にとどまらず、周辺分野への波及効果にも見出すことができます。その一つが、不動産分野における新たな需要です。
訪日が不定期となりやすい観光目的とは異なり、メディカルツーリズムは定期的かつ継続的な来訪が見込まれる点に特徴があり、以下のような需要が発生する可能性があります。
住:セカンドハウスの検討
定期検診や再治療のために来訪を重ねる中で、宿泊施設ではなく、日本国内に自身の滞在拠点を設けたいというニーズ。
滞:家族同行による長期滞在拠点
治療や検診の際に家族が同行するケースも想定され、プライバシーと快適性を備えた高品質なレジデンスへの需要。
働:ワーケーションとの親和性
高度な医療へのアクセスを確保しつつ、安全性の高い環境で業務を行う形態。
不動産市場の観点では、医療機関の立地やアクセスの利便性は、周辺環境と併せてエリア全体の評価に影響を与える要素となりつつあります。
メディカルツーリズムは、単体のインバウンド施策としてではなく、良好な日本の治安、生活環境、食文化、観光資源と結び付いたウェルネス体験の一部として捉えられます。高水準の医療と生活環境の双方が整うことで、滞在や居住への関心が高まる可能性があります。
世界の富裕層の移住者数は、2013年の統計開始以降増加傾向にあり、2025年には13万人規模に達すると予測されています。富裕層純流入数として日本は10位(2024年推計)※3に位置していますが、今後の施策次第ではさらなる順位上昇が期待されます。
そのためにも、AIも活用した多言語対応やリモート応対を含む柔軟な運営体制の整備など、ホスピタリティのレベルアップは今後検討すべき指標の一つといえるでしょう。また、大都市圏での取り組みを重視せず、人口10万人当たりの医師数が比較的多い徳島県や長崎県※4などにも展開するなどの、地方創生と連動した取り組みを進める余地もあります。