第1部 経営上の投資用不動産の位置づけ
第2部 自然災害と所有者責任
第3部 AI・ACTの発達、利用するデータの多様化
第4部 CREにおけるESG・SDGs
村木 信爾
不動産鑑定士
明治大学グローバル・ビジネス研究科 兼任講師
MBA(米国ワシントン大学ビジネススクール)
第3部 AI・ACTの発達、利用するデータの多様化
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一定以上の企業不動産を保有する企業は、さまざまな契約や物件管理機能を持ち、キャッシュマネジメント等に用いる、CRE専用パッケージソフトウェアやインターネットを利用したASP(Application Service Provider)やSaaS(Software as a Service)等を用いることで、開発期間の短縮、業務の効率化、セキュリティの強化を行っています。
ITにより不動産情報を収集、データベース化して統括し、そのアウトプットを分析することにより、アセットマネジメント、プロパティマネジメント、契約管理、コスト管理、投資管理や、リスクマネジメント(特にCO2排出対応マネジメント)にも活用できます。また、財務・人事・顧客情報など企業の業務をサポートする業務ソフトと不動産情報を連携させることができればより効果的です。
※出所:澤野順彦「テナント企業の震災リスクマネージメント」(NBL No.956、商事法務)
※AI:Artificial Intelligence(人工知能)人間の知的な働きをコンピューターで模倣する技術全般のこと。
※ACT:Advanced Communication Technology(先進通信技術)従来の通信技術を超える高速・大容量・低遅延・高信頼性を実現するための先端的な通信技術の総称のこと。
※キャッシュマネジメント:企業の資金を一元管理し、入出金や資金繰りを最適化する活動やシステムのこと。
※ASP:Application Service Provider インターネット経由でソフトウェアやサービスを提供する事業者のこと。
※SaaS:Software as a Service インターネット経由でソフトウェアを提供するサービスのこと。
組織にはそれぞれ適したITソフトウェアが必要であり、エクセルのワークシートの管理だけで十分な企業もあれば、CRE専用のITソフトを使うことが効率的な企業もあります。「組織に適した」というのは、組織に存在する不動産情報を十分扱え、かつオーバースペック(使わない機能が多いソフト)にならないようにすることです。収集した情報を何に使うか、ということをしっかり認識しながらITソフトを導入しないと、情報を使っていないことが情報入力者にわかり、その情報を更新することを怠るようになります。その結果、不要な情報ばかりが残り、結果としてソフトの利用が減り、廃棄されることにつながる場合があります。したがって、実際に利用する情報であるかどうか、定期的に見直すことが必要です。不動産関連ソフトウェアには、プロパティデータバンク社の「@プロパティ」などがあります。
ソフトウェアに搭載するデータは、もれや重複なく、利用するための最低限の情報を搭載して関係者が共有できるようにし、またデータは、他と比較評価が可能な単位で収集します。建築の分野では、国際コスト管理基準(ICMS)が普及し始めています。近年開示を求められているCO2の排出量、耐震性能や違法性等のリスクに関する情報の重要性が増しています。
※ICMS :International Cost Management Standard(国際コスト管理基準)建設プロジェクトのコストを国際的に一貫性・透明性をもって比較・評価するための標準化された分類システムのこと。
オルタナティブデータ、GIS (地理情報システム)の利用、建物・街の3D化
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近年、携帯電話の移動データ、衛星データ、気象データなどのオルタナティブデータやGIS(地理情報システム)の活用がCRE戦略において拡大しています。
オルタナティブとは「代替の」という意味ですが、オルタナティブデータは、政府公表の伝統的なデータ以外の、いままで使われていなかった非定型、非金融のデータなどすべてのデータで、たとえば、携帯電話の移動履歴(位置情報)、衛星写真、気象情報、特許情報、POS売上データ、企業統計、交通量、カード利用情報、企業財務情報、株式情報、ニュースの記事などが含まれます。
GIS(地理情報システム)とは、デジタル化された地図情報の上に各種情報をレイヤーとして重ね、都市や河川・山岳など地図上の要素の相関関係や傾向を可視化することを可能にするもので、地図上の土地建物とそれに関係した情報(顧客情報・現地写真等)を結びつけて共有・管理でき、距離や面積の測定、エリアマーケティング、商圏分析やハザードマップ作成など災害対策などにも利用されています。
CRE戦略において、GISとオルタナティブデータを利用する例としては、以下が挙げられます。
1.商業施設の商圏分析
2.自然災害対策として、人流データを基に、警報・注意報による人流への影響分析、避難経路や避難行動の可視化
3.建築関係では、衛星データにより、建物の工事進捗状況を把握することや、新規建物を検知することやセンサーによる建物劣化診断
4.ファシリティマネジメントにおいては、センサーを用いて従業員の人流データを収集し、エネルギーの効率化や施設の効率的利用を図ることや、部門間のコミュニケーションの頻度を把握して、オフィス内部の机や部署の適正な配置を行い、従業員の満足度を高めること
また、以上のようなデータは不動産評価にも活用されます。
国土交通省は、地理空間情報の充実、オープンデータとして、GISデータ(国土数値データ)の整備、無償提供や統計情報のGIS化を行っており、情報連携の強化策として、建築、都市のDX化(建築BIM、PLATAU、不動産ID)、地籍調査成果のデジタル活用、人流データの利活用、不動産登記情報の活用を挙げ、地理空間情報を使い易い環境の整備のために、不動産情報ライブラリの整備を行っています。
以上のような新しいデータソースやGISなどのツール、そして近年発達が目覚ましい生成AIやAIエージェントの利用により、CRE戦略においても効率化の進展や創造的な取り組みが、加速度的に進んでいます。
※GIS:Geographic Information System(地理情報システム)
※POS:Point of Sale(販売時点情報管理)
※建築BIM: Building Information Modeling(建築情報モデル) 建物の設計・施工・維持管理に関する情報を3Dモデルに統合して管理する手法や技術のこと。従来の2D図面に比べ、形状だけでなく材料、構造、コスト、工程、性能などの属性情報を含むのが特徴。
※PLATAU: 「3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化プロジェクト」の名称。日本全国の都市を高精度な3Dモデルで再現し、都市計画、防災、スマートシティなどに活用されています。
※不動産ID:全国の不動産それぞれに番号を付与し、不動産IDを連携キーとして用いることにより、各不動産情報の名寄せや連携をスムーズに行えるようにするもの。
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