第1部 経営上の投資用不動産の位置づけ
第2部 自然災害と所有者責任
第3部 AI・ACTの発達、利用するデータの多様化
第4部 CREにおけるESG・SDGs
村木 信爾
不動産鑑定士
明治大学グローバル・ビジネス研究科 兼任講師
MBA(米国ワシントン大学ビジネススクール)
近年、地球温暖化の影響もあり、自然災害が多発しています。不動産オーナー、テナントとしても他人ごとではありません。以下企業としての災害への備えについて述べます。
災害は、大きく地殻災害(地震、噴火)と気象災害(高潮、豪雨、暴風、豪雪)に分類され、これらが単独にまたは複合して、洪水、土砂災害、液状化、火災、建物の倒壊などの被害を及ぼします。そして、それらの被害が地域の衰退等の二次的な被害を及ぼします。また、災害そのものではありませんが、軟弱地盤や密集市街地等は、災害に対する脆弱性から、上記の洪水、土砂災害、液状化、火災、建物の倒壊の被害を重大化させます。
密集市街地は2012年から10年で半減しましたが、住民の高齢化、税金、取壊し・移転費用、権利関係が壁になり、現時点で解消にはいたってはいませんが、令和12年度までに概ね解消し、危険密集市街地における地域防災力の向上に資するソフト対策の実施率(約46%(令和2年度末))を令和7年度までに100%とする目標を定めています。
また、水没危険地域と指定されている地域で人口が増加していることや、ハザードマップの設置が遅れている自治体があることは問題です。
民法第717条は、土地の工作物の設置・保存の瑕疵がある場合に占有者および所有者としての責任を定めています。
2020年2月5日、神奈川県逗子市内の分譲マンション敷地内にある高さ16メートルの斜面で土砂崩れが発生し、約60トンの土砂が崩落しました。この土砂により市道を通行中の歩行者が巻き込まれ死亡する事故が起きました。この裁判で、管理会社と担当者に不法行為責任を認めており(横浜地裁2023年12月15日判決)、同年6月に管理組合(区分所有者約50人)が総額約1億円を支払うことで和解しています。
「瑕疵」の判断は、物理的欠陥だけでなく、予見可能性や安全配慮義務違反を総合して認定されますので、占有者および所有者は必要な点検や補修を行う必要があります。
※民法第717条
第1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
第2項 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
第3項 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
耐震性に関する規制は、1981年6月の建築基準法改正後の新耐震基準の他、1995年1月の阪神・淡路大震災、2004年10月の新潟県中越地震、2011年3月の東日本大震災、2016年4月の熊本地震、そして2024年1月の能登半島地震など大規模地震が起こるたびに、強化されてきています。2019年の建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)の改正では、大阪北部地震や熊本地震で、倒壊したブロック塀の下敷きになり死者が出たことから、建築物に付属する組積造の塀が「通行障害建築物」の対象に追加されました。これにより、耐震改修が必要となる塀の範囲が広がり、関連する基本方針も改正されました。判例においては、未曽有の大震災だからといって建物所有者の土地工作物責任は免責とならないとされています。(神戸地裁平成11年9月20日判決:阪神・淡路大震災関連)なお、既存不適格建築物は、耐震性や火災時の避難機能が劣っているケースが多くあるので、大きなリスクを負っていると考えるべきでしょう。
建築物を管理する企業は、一定規模の建物の火災対策として、防火管理者の設置、危険物の貯蔵や取り扱い、消防設備の整備や定期点検などの規制に注意しなければなりません。ホテルの火災で、ホテル経営者が防火管理上の注意義務を負っていたと認定された判例があります。(最高裁平成6年11月25日判決)
設備機器の不備も同様で、テナントの入居しているビルの停電によりコンピューターが停止して、大きな損害が発生した場合や、エレベーターが制御不能になって、テナントの従業員に死者が出たというような場合には、所有者、テナントとしての土地工作物責任、不法行為責任が問題になりえます。
ビルオーナーとしては、緊急時の対応についてできる限りテナントに説明し、通常の耐用年数の範囲で機器を更新しながら、メンテナンスを怠らず、所有者、管理者として最善の備えをしておく必要があります。テナントとしては、非常時の対応を事前に検討し、必要に応じて非常用電源の不足分のバックアップ対策を講じることが望まれます。
自然災害に関して、賃貸人、所有者、管理会社が日頃から対処しておくべきことは、いわゆるBCP(事業継続計画)あるいはBCM(事業継続マネジメント)と呼ばれるもので、建物の耐震性、土地の地盤などの対策を取ることのみならず、避難訓練をテナント、所有者ともに交えて定期的に行うこと、テナントや来訪者らへの避難誘導、帰宅難民に対する対応、さらには、建物の損傷に対する迅速な機能回復等のシミュレーションを行ってこれらに備えることなどが含まれます。すなわち、テナント従業員や来館者の安全の確保を第一に、できるだけ早期に復旧すること、近隣企業等と助け合い、地域と連携することが求められています。
※BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)企業や組織が自然災害・大規模火災・システム障害・テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合でも、重要な事業を止めず、またはできる限り早く復旧させるための計画のこと。
通常、建物の耐震性に問題がある場合でも賃借人に補強の権利はなく、せいぜい賃料減額請求ができるのみです。賃借建物そのものや賃貸人の対応に問題があると認められる場合には、テナント企業は賃貸人に対し、早急な改善を要求し、無理な場合には解約という選択肢を考える必要があります。賃借人である企業が、建物に重大なリスクがあることを認識しながら従業員やテナント企業等関係者に損害が出たときは、民法第717条の土地の工作物等の占有者および所有者の責任や、企業の労働者に対する雇用契約上の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。したがって雇用主は、建物の安全性に十分配慮し、賃借する建物を選択する必要があります。
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