CRE(企業不動産)戦略は、端的に言えば、企業の経営戦略に合致した不動産の保有、活用、処分により、最終的に企業価値を最大化するための戦略です。また、CRE戦略は、企業の業種、業態、大企業か中堅企業か、新興企業か、衰退産業の企業か等によって、直面する課題が異なるため、各企業は基本的な課題を理解しつつ、自社の経営環境、事業特性を踏まえ、独自のCRE戦略を策定し実践していく必要があります。
2008年に出版された国土交通省「CRE戦略実践のために-ガイドラインと手引き」およびその改訂版(2010年)以来15年余り経ちましたが、その間、少子高齢化による人口減少の更なる進展、外国人労働者、インバウンド観光客の増加などのグローバル化、AI、ICTの発達、ESG・SDGs重視など、社会、経済の大きな変化に伴って、企業は企業戦略、事業戦略の変化を迫られ、CRE戦略のあり方もそれに伴い変化してきたと言えます。
ただし、各企業が考える「CRE戦略」は、同床異夢の感があり、ある企業は不動産の有効活用、売買などの取引実行段階のこと、別の企業はファシリティマネジメントのこと、また別の企業は不動産に関連する財務、会計のことに焦点を当てて議論されています。
※AI(Artificial Intelligence:人工知能)とは、大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの。(出所:一般社団法人 人工知能学会設立趣意書からの抜粋)
※ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)とは、情報を収集、処理、伝達するための技術全般で、通信技術を活用したコミュニケーションやサービスを含めた総称のこと。
※ESG(Environment, Social, Governance:環境、社会、企業統治)とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動のこと。
※SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。(出所:外務省)
CRE戦略の全体像として、以下の7つの視点が重要です。
1. 戦略策定段階
企業の現状の企業戦略、事業戦略を確認し、それらに現在保有している企業不動産が適合しているのか、絶対に必要な不動産はどれか、必要でない不動産は何か、将来必要になるかもしれない不動産はどれか等仕分けします。そのためには、まず保有不動産のデータベースを策定し、それぞれデューデリジェンスを行って、その価値、特に「市場価値」と、その企業にとっての「使用価値」を把握しておく必要があります。使用価値を把握するためには、当該企業にとっての経営戦略、事業戦略に基づく「立地戦略」が重要です。仕分けができた後は、実際にCRE戦略実施計画を立てます。ここではすぐには売却できない不動産や購入できない不動産があるため、優先順位をつける必要があります。
2. 取引実行段階
上記1.で策定した実施計画を、有効活用、売買、賃貸借で実行に移す段階です。「所有か賃借か」という課題はこの段階の重要なテーマの一つであり、ビジネスを展開していく上で、所有のリスクをとるべきかどうかや、各取引の財務諸表への影響等が課題になります。
3. 運営・管理・利用段階
上記2.で、保有することが決まった不動産のファシリティマネジメント、プロパティマネジメントの段階です。清掃、警備、設備管理などのビルメンテナンス、外壁の大規模修繕などのコンストラクションマネジメント、および、貸しビルにおけるリーシングマネジメントや、自社ビルにおいて近年特に重視されているワークプレイスマネジメントがテーマとして挙げられます。
4. CRE組織
経営の意向を汲み取り、全社各部署のCRE業務を横軸で一元管理する組織であり、アウトソーシングする業務を見極め、サービスプロバイダーに発注し、受領した商品、サービスを検収する組織です。一元管理できるようになれば、大量発注することができ、良質な物品、サービスを購入できるようになります。
5. 情報システム
全社のCRE情報を収集、管理、利用するために必要な、統合データベースなどの管理ソフト、基盤となる情報システム、および実際に使うデータを、確実に収集して活用する仕組み、体制が求められます。近年、携帯の位置情報データ、衛星画像データなどオルタナティブデータの利用も求められてきました。
6. CRE人材、人材育成
上記の業務を行うためのCRE人材のあり方、および人材育成がテーマです。経営陣、他部署の意向をくみ取り、かつプロであるサービスベンダーに業務を適切に発注し、出来上がりを検収する組織内プロフェッショナルとしての能力が求められます。
7. 経営のコミットメント
以上のCREの実務および基礎環境を活かすためには、経営によるCRE戦略に対するコミットメントが必要です。ここでのコミットメントとは、経営戦略のなかで、経営者がCRE業務に積極的に関与し、必要な資源を投入し組織全体を巻き込むことを意味します。
企業組織内そのそれぞれの段階に応じて、戦略コンサル、不動産仲介会社、FMコンサルなどの、企業からのアウトソーシングを受託する外部のサービスプロバイダーやコンサルタントが存在し、当該企業にサービスを提供します(図1)。
また、サービスプロバイダー自身にも、顧客の不動産ニーズのみならず、その後ろにある経営戦略、事業戦略の理解が求められます。