コロナ禍の終焉後、国内、インバウンドとも旅行者が増加しています。
日本政府観光局は2024年3月以降、毎月300万人以上の訪日外客数があることを公表しており、7月に開催された観光立国推進閣僚会議では、2024年の訪日外国人旅行者数が約3,500万人、旅行消費額は約8兆円と過去最高になる見通しが示されています。さらに、2030年の目標はインバウンド旅行者数6,000万人、消費額15兆円と、2024年の「ほぼ倍」を目指しています。
また、観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、2023年の年間延べ宿泊者数は約6億1,747万人泊で、2011年以降では最多となりました。2024年の上半期(1~6月)の総宿泊数は3億476万人泊、前年同期の2億8,340万人泊に対し、7.5%の増加となりました。外国人宿泊数は7,726万人泊(同4,894万人泊)と、昨年の1.58倍に増え、シェアも25%強まで引き上げられました。
アフターコロナの急激なインバウンド客増加については、百貨店の売り上げアップや、体験型消費の拡大などの経済的なプラス効果が見込まれる反面、「オーバーツーリズム」の問題もクローズアップされています。
旅館・ホテル業界では、宿泊者が南関東(東京、神奈川、埼玉、千葉)と、近畿(特に京都、大阪)に集中していることで、このエリアでは需要過多の状態になり、「スタッフが足りない」、「予約が取れない」、「宿泊費が高額化する」等の問題が勃発する一方で、宿泊数が伸びる地域と伸びない地域との格差拡大という現象をも引き起こしています。
現在、国内の旅館・ホテルには6.0~6.5億泊程度の客室キャパがあると考えられますが、2030年までに目標通り外国人観光客が増えた場合、キャパオーバーするのは明らかです。仮に日本人の旅行者数を横ばいと仮定しても、首都圏や近畿圏では今以上に宿泊施設の確保が厳しくなり、宿泊費の高騰は続くと考えられます。
その対策として、旅館・ホテルのキャパシティを高めることが喫緊の課題で、加えて政府方針にもある「地方への誘客促進」が長期視点の課題となります。
下グラフにもあるように南関東、近畿以外の、宿泊需要の少ない地域に対するテコ入れ~例えば、観光拠点の開発とセットとなったホテル開発~により取り込んだインバウンド需要を分散し、地域活性につなげることが重要です。機を見るに敏な外資系ホテルなども、既に地方都市やリゾート地への展開※を始めています。
日本政府の言う「観光立国」化の実現には、旅行客増加と宿泊マーケット拡大、観光拠点の地方分散等を柔軟にイメージした取り組みが必要とされます。
※金沢に2020年にハイアット セントリック、ハイアット ハウスの2棟がオープン。ヒルトンは富山、長崎、広島に進出、鹿児島にはシェラトンがオープンした。また、北海道ニセコエリアでは、ヒルトンニセコビレッジの他、パークハイアットがホテル棟とは別にレジデンスを分譲。岩手県の安比高原ではIHGの1000室を超えるリゾートホテルが進出。
株式会社 工業市場研究所 川名 透