首都圏を中心に増える老朽化マンションの建て替えがしやすいように、要件緩和に向けた政府の動き(区分所有法改正案)が本格化しています。
マンションの建て替えについて、現在では所有者の5分の4の賛同が必要となりますが、改正案では、4分の3の賛同※1にまで引き下げられます。
また、借主が存在し、居座り等で工事に着手できないケースなどについては、議決に基づいて6か月後の退去を要求でき、所有者が立ち退き費用などを補償することで賃貸借契約を解除できるようになります。2024年の通常国会で提出される見込みのこれらの改正案で、マンションは現状より建て替えがしやすくなると思われます。
国土交通省の調べによると、築40年以上の分譲マンションは、2022年末でおよそ126万戸あり、2042年末には約3.5倍の445万戸にまで増加する見込みです。
東京カンテイが実施した調査※2では、これまでに建て替えを実施したマンションは、全国で282件、そのうち東京は6割以上のシェアを占め、港区と渋谷区がトップの29件で並んでいます。
建て替えにより、容積率や建蔽率の緩和等が見込めるケースもあり、こうした増床分の権利を、デベロッパーなどの事業者に売却することで、建築費用の負担が軽減され、住民合意を形成しやすい条件も整います。したがって今後、マンション供給が少ない人気エリアで、現在の戸数から建て替えによって総戸数の増加幅が大きくなるマンションに、注目が集中することが予想されます。
高度成長期に建てられたマンションは、駅近などロケーションに恵まれているものが多く、立地条件のいい物件は銀行融資も得やすいと思われます。実需・セカンドハウス・資産運用投資を目的とした購入ニーズを背景として、こうした老朽化マンションの建て替えブームが起こる可能性が予想されます。
不動産投資家の中には、耐用年数を超えた古い分譲マンションを現金などで購入して建て替えを待つ、といった動きも出てくることでしょう。
しかしながら、要件の緩和が進んでも、マンションの建て替えは、当該マンション住民の合意形成とエリアの人気状況、建築費・容積率の緩和見込みなどの事業性要件を満たさなければ実現できません。また、大規模マンションでは所得水準や年齢層等が多様であり、この合意形成に長い時間がかかることも考えておく必要はあります。
今後、首都圏を中心にさらに増える老朽化マンション。要件の緩和による建て替えが、地域の景観や都市の美観を向上させる可能性もありますが、何より、建物の質や耐久性が向上することにより、災害に強い安心・安全・快適な生活環境が確保されます。
将来的な社会的課題にもなりかねない老朽化マンションの建て替えがスムーズに実現されるようになれば、景気回復の起爆剤となる可能性も見込めます。マンション建て替えをさらに円滑化する今後の活発な動きを期待したいところです。
※1 耐震性不足などの重大要件に関して、全員合意で多数決割合を緩和できる案も検討されている
※2 2020年10月末調査実施
一般社団法人 ライフプランニング協会代表理事
菅井 敏之