物価が高騰し金利の先高観が出ています。
日本銀行は長期金利の上限目標を+0.25%から事実上+1.0%に引き上げました※1。長期金利は2022年から上昇を続け、全期間固定金利型住宅ローン「フラット35」の金利は2022年1月の1.3%から、2023年9月には1.88%※2まで上がっています。アメリカで利下げが意識され始めそうな年内終盤まで、長期金利の上昇圧力は続くと考えられます。
一方、短期金利は全く動きがありません。変動金利型の住宅ローンは、反対に金利が下がり続けていて、ネット銀行などでは0.2%台の商品※3も登場しました。マスコミでは長期金利の上昇ばかり騒いでいますが、金利は今このように二極化しています。
不動産投資や住宅ローンを検討している人の多くは短期金利をベースとした変動金利を利用しており、今のところ長期金利の上昇が不動産マーケットに与える影響は限定的です。
状況が変わるのは実質賃金が上がり、社会全体で景気の好循環が始まる時。日銀が経済状況をしばらく注意深く見守ったうえで決定し、変動金利はもちろん、2年固定や3年固定の金利水準の上昇も見込まれます。
勤労収入で返済する住宅ローンの場合、情勢が見えない中で変動金利を選ぶのは怖い、と感じる人は多いです。しかし金利の仕組みや経済の動き方を正しく理解し、自身の財務状況やライフプランを十分に把握していれば、固定か変動かどちらを選ぶかは冷静に判断できます。貴重な現役時代の資産形成期に機会損失をしないためにも、過去の動きを検証し、金利は一本調子に上がるわけではないことを認識していれば、上手く機を捉えることも可能です。
不動産投資市場において、もともと2~3%の金利上昇を事前に想定して物件を購入している人は、変動金利が上昇したとしても対処できます。銀行融資も適用金利より2~3%高い審査金利を使って融資判断を行っています。社会全体のインフレが進めば賃金も上がり、地域にもよりますが、家賃を上げ、金利上昇による損失をカバーできる可能性はあります。金利上昇時に賃料を上げやすいよう、新規物件は定期借家契約で運営するのも一策です。
金利上昇傾向になると、銀行の審査時における金利ストレス、つまり審査金利は強まります。新規申し込みのみならず既存の借入金にもストレスをかけられるので、既に残債が多い人にとってはアゲインストとなります。金利の上昇があっても、簡単には破綻しない状態を作るのが基本で、地道な財務基盤の構築が必要です。
今後の不動産マーケットを見通すうえで、投資家として注目しているのは銀行の金利よりも返済期間の動向です。例外事例ではありますが、住宅ローン50年返済を許容する地銀や、収益不動産融資においても耐用年数を大幅に上回る返済期間を適用可とする銀行の事例も見受けます。2,000兆円を超える個人金融資産、老後に向けた資産形成手段としての不動産購入ニーズ、円安を背景に続々と参入する海外投資家などが背景にある今後の不動産マーケットは、金利だけを視野に入れるのではなく、総合的な情報収集による判断が必要となります。
※1 2023年7月28日 植田総裁記者会見より
※2 フラット35 公式HP 2023年10月時点
※3 SBI新生銀行 2023年10月時点
元メガバンク支店長・不動産実業家
一般社団法人 ライフプランニング協会
代表理事 菅井 敏之