既に報道などでもみられる通り、「2024年問題」は、これまで適用が先延べされていた運送業・建設業等に、労働時間の上限規制が適用されることで起きる諸問題のことを指します。
これにより、長時間労働しなければ立ち行かなかった業界では労働力不足に陥り、様々な障害が生じるだろうと予測されています。
特に運送業については「宅配業者が長時間働けなくなる」点がクローズアップされていますが、最も深刻であるのは、BtoB中心で日本の輸送量の約8割を占める「大型トラック(最大積載量6.5t以上)輸送」に関する問題です。
大型トラック輸送の用途は完成品のほかに、原材料等の輸送を含むため、長距離が多くなりやすく、長時間勤務が多くなりがちです。既に物流大手ではドライバーのリレー方式を採用するなどして、労働時間を規制の範囲内に収めるといった施策を行っていますが、 “歩合給を採用しているケースが多い中小企業”のドライバーは、労働時間が収入に直結するため、時間外労働の上限規制導入により離職者が増えることが懸念されています。
この問題の本質は、現在必要とされている物流量を維持するには、規制によって個人の稼働が減少する分、ドライバーを増員しないといけないというところにあるにもかかわらず、その実現のメドが立っていないことです。ドライバーの収入レベルの向上や、運賃の引き上げによる受注量減少懸念などは、深刻度合いにおいてはまだ解決可能な領域にあると考えられています。
最も理想的な解決策は“トラックドライバーという職業が収入的にも就業環境的にも優良と認識されて、新規の就業者が増える”ことですが、現状定着している「長時間勤務のきつい仕事で低収入」というイメージを払拭するのにはまだ時間がかかりそうです。
それ以外には「荷台連結型の超大型トラック等を開発し、一人当たりの輸送量を大きく引き上げる」や「ドライバーなしの完全な自動運転輸送を実現する」、「鉄道輸送を併用し、トラックの利用距離を少なくする」などの諸策が考えられますが、鉄道利用案以外の実用化にはまだ時間を要する見込みで、2024年問題に向けての即効性はありません。
また、トラックドライバーの業務の拠点ともなる物流倉庫については、例えば東京都市圏では庫齢30年以上になる施設が半数※に達していて、ドライバーの労務効率を低下させることも懸念されています。搬出入をスムーズにし、時間短縮を実現できれば、物流コスト低減にもなるでしょう。加えて、環境対策や災害に絡むBCP体制等、今後ますます物流倉庫に求められるインフラ要件は増大していきます。
運送従事者の地位向上や物流施設のグレードアップにより、2024年問題を乗り越え、物流業界の安定化が期待されています。
※国土交通省 物流をめぐる状況について 2015/4/30 参考資料④より
株式会社 工業市場研究所 川名 透