2024年7月に紙幣が一新されます。
新札発行の目的は偽造防止とされていますが、別の狙いとしては「タンス預金」のあぶり出しにあると推察します。
日銀の資金循環統計によると、2022年12月時点の家計部門で保有する現金は109兆円と過去最高となっています。2023年度の国家予算は114兆円なので、日本の国家予算に相当する金額が現金退蔵されていることになります。
このタンス預金増加の大きな理由は、国に個人の資産を把握されたくないことと思われますが、実際には国税庁の国税総合管理システムなどにより、ほぼ国税庁と税務署に管理されています。
2015年1月からの相続税の改正で基礎控除が引き下げられ、相続税を支払わなくてはならない国民が増えました。また預金口座にマイナンバー登録が義務付けられているため、今後、国は金融機関に預金している個人の資産保有額を把握することが可能になります。金融資産をタンス預金にしておけば、国に個人の資産を把握されずに済むと考える国民が増えたことで、タンス預金が増えたのでしょう。
新札発行によりタンス預金をあぶり出すことで、マネーロンダリングや脱税を防ぐ効果もあります。一方で109兆円もの現金退蔵が消費や投資など市場に回れば、経済を大きく循環させることが期待できます。
タンス預金が金融機関を通して投資や銀行預金に回る場合、200万円を超える大口現金取引は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づき、本人確認・取引目的や職業などを確認する書類・「疑わしい取引の届出」の措置が義務付けられます。
2018年、FATF※は日本の金融当局に対し、マネーロンダリングに対する認識と規制が甘いと指摘しました。その指摘に基づいた金融当局の指導により、既にどの金融機関でもマネーロンダリング対策の厳格な運用がなされ、犯罪収益移転防止法で対象となる事業者には、金融機関のほか宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者も含まれるようになっています。したがってこの新札発行に際してのタンス預金のあぶり出しによって、その資金が金融市場や不動産市場に直接振り替わるのはかなり限定的と思われます。
旧札になっても紙幣としては使えるため、ほとんどのタンス預金は市場に出ることなく眠り続けるとの見方もありますが、新札が普及したときに、旧札をまとめて使用することや、少額に分けて何度も使うことは、誰が見ても目立つ行為となり、特定事業者や税務署から見れば、グレーなお金だと認識されやすくなるでしょう。
では結果的にタンス預金はどこに向かうのでしょうか?
2023年6月30日付け日本経済新聞記事によると、伊勢丹新宿店、高島屋日本橋店などの有力百貨店の売上高はコロナ前超えとなったと報じられました。特に富裕層の高額品を買い求める動きが勢いを増しているそうです。
こうして、「何か書類を書かされるのは面倒だから、その前に使おう」という意識が高まり、タンス預金109兆円のうちの仮に1割、11兆円が買い物や国内旅行などの消費に回れば、大変な経済効果となって、長い間個人消費の停滞に悩まされてきた日本経済は活性化します。
新札発行を起爆剤として個人消費が伸び、景気の好循環が起これば所得は向上し、所得が増えた若い世代が資産形成を目的として、全国各地で不動産を求める動きにつながっていくことが期待されます。
※FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)
1989年のアルシュ・サミット経済宣言を受けて設立され、マネロン・テロ資金供与・拡散金融(大量破壊兵器の拡散に寄与する資金の供与)対策の国際基準(FATF勧告)を策定している多国間の枠組み。
菅井 敏之
元メガバンク支店長・不動産実業家
一般社団法人 ライフプランニング協会 代表理事