旧約聖書の「出エジプト記」にならって、大脱出を「エクソダス」と呼びます。ニューヨークとサンフランシスコとシアトルで新型コロナにより特に大規模なエクソダスが発生しました。しかしニューヨークでは2022年6月現在、郊外へ脱出した人たちの逆流現象が起きています。
注意を要するのは「在宅勤務」「リモートワーク」というのはホワイトカラーの一部の話である事で、これらを冷ややかに見ていた市民も多くいました。ニューヨーク市には320万世帯が住んでいますが、新型コロナ流行後の1年間に市外へ転居したのは16万世帯にすぎないのです。
またエクソダスした人の中には、「1DKに夫婦2人と幼児と赤ちゃん住まい」というような若いカップルがいました。彼らはこの際だから広い家へ引っ越しをしたわけで、新型コロナは数あるきっかけの一つにすぎません。これは需要の前倒しという面が強いのです。
2020年3月22日にニューヨーク市がロックダウンされ、その後エクソダスが始まりました。マンハッタンの賃貸マンションの空室率は2021年初頭には12%弱まで上昇、家賃相場が底を打ったのもほぼ同時期です。
その後、2021年5月頃から家賃の再上昇が始まり、以降は上昇の一途をたどりました。2022年5月の家賃のメディアン(中央値)は4,000$(54.4万円)と史上最高額になり、空室率は新型コロナ前の水準を下回る2%に下落しました。賃貸マンションの新規リースのピークは、「新卒者の就職」や「学校の年度初め(9月)の準備」が重なる8月なので、家賃相場は今後もまだ上昇しそうです。
一方、オフィスへの復帰は回復が鈍く、企業経営者を悩ませています。経営者たちは「オフィスで一緒にいないとチームが機能しない、従業員のトレーニングもできない」等としているのですが、従業員側は「在宅勤務でも生産性は高かった」と主張しています。しかし従業員の中には、いずれはオフィスに戻らなくてはと覚悟していながらも、できるだけ長い間在宅勤務を続ける事で「楽をしよう」としている人間も多いように見えます。
マンハッタンには非常に多くの中小・零細業者が存在し、一種の「生態系」になって街が成り立っています。ホワイトカラーのオフィス復帰抜きではこの生態系が回りません。
そこへFed(連邦準備制度理事会)の利上げや株価の急落等が起き、景気後退入りする可能性が高くなってきました。景気が後退すれば各企業で人員削減が始まります。自分がリストラ対象とならないようにと、今後一挙に大量のオフィス復帰が起こるのではないかという見方があります。
エクソダスで引っ越してそのまま郊外に住み続ける人の分、郊外からの通勤者が増加するはずです。通勤電車は新型コロナの流行前からラッシュ時は満員でした。これに新たな通勤者が加わるので、通勤電車は日本の昔のラッシュアワーよりもひどい混雑になりそうです。
(ドル=136円 2022年7月5日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清