オーストラリア全体で住宅価格が下落していますが、特に主要2都市のシドニーとメルボルンで価格下落が顕著です。ただし後述するように、まだ経済全般に重大な影響を与えるほどではないだろうとされています。
3月時点で見るとシドニーの住宅価格はピークだった2017年比で13.9%下落、メルボルンは10.3%下落をしています。1年間で2けたの下落というのは1980年代初頭以来です。
オーストラリアの面積は769万平方キロで日本の20倍、人口は2,499万人で日本の5分の1です。にもかかわらずシドニーの住宅は東京よりも高く、去年の5月の時点で戸建て住宅のメディアンは118万$(1.3億円)でした。所得やローンの金利水準等を加味した「アフォーダビリティ(住宅取得の容易さ)」で見ると、シドニーの住宅価格は世界でも香港に次いで二番目に高いのです。
我々は長い間、日本は国土が狭く平野が少ないので住宅の値段が高いのも仕方がないと思い込んでいました。しかし事実は異なります。アメリカのニューヨークやサンフランシスコ、カナダのトロントやバンクーバー、そしてシドニーやメルボルン、これらの国は日本とは比べ物にならないくらい広いのに、住宅価格は東京や大阪よりかなり高額です。
「狭いから高い」と言えるのは、香港とモナコ、これにシンガポールを入れるかどうかくらいで、住宅価格と国土面積の関係はあっても二次的なものです。
シドニーでは商業不動産市場は住宅市場ほどは悪くありません。例えばオフィス主体の巨大再開発、バランガルーの第一フェーズは昨年5月に成功裏に完了しました。
バランガルーにはマンションも159戸あり、2013年当時は販売開始から3時間半で完売するという好調ぶりでした。しかし今、売り出されていたらどうだったかわかりません。
現在販売されている物件では10万豪$(790万円)の値引きや、投資家が購入した場合のリース保証、販促としてiPadを付けるといった状況が見られます。
シドニーでは5年間続いた住宅ブームで、2012年比で価格が60%も上昇しました。この結果、現在の程度の価格下落が起きても、金融機関にとってローンの担保不足なり含み損となる額はまだ小さく、吸収可能だろうと見られています。
したがって経済全般に影響を及ぼすような大ごとにはならないとされているわけです。オーストラリアは先進国では極めて稀な「27年間、景気後退に陥っていない」という記録を更新中なのですが、今回は一服する可能性にも注意すべきでしょう。
($=111円 豪$=79円 2019年4月10日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清