ロンドンの住宅価格はこの10年間で倍になっていますが、しばらく前から値下がりが始まりました。最初に崩れたのはチェルシー、メイフェア、ケンジントンといったセントラル地区にある超高級住宅の市場で2014年の秋からパタッと売れなくなり、このセグメントから値下げが始まったわけです。
これが順繰りに伝播しロンドン全般で価格下落する状況となり、それが今、全国へ伝播しています。但し、イギリス全体では前年比での価格上昇率はまだプラスの領域にあり、スコットランドのエジンバラのように前年比20.9%と、活況な地域もあります。
ロンドンの不調さの要因を挙げると、まず「ブレグジット問題」があります。
ブレグジットによりロンドンの金融業が縮小すれば、金融業従事者という高所得層も減少する可能性が高く、これは住宅市場の一番上の層の需要が減ることを意味します。もう一つの影響は「ブレグジットに伴う不確実性」という問題で、どのようなことになるかが分かるまでしばらく動くのはよそうという心理です。
スタンプ税の強化も非常に痛く、これをロンドンの住宅市場の不調さの最大の原因とする不動産業者も多くいます。「スタンプ税」というのは登記の書類にハンコ(スタンプ)を押してもらうための手数料です。日本では登録免許税の支払いの際に「印紙」を買ってハンコを押しますので「印紙税」と訳されることがありますが、税率が変更された事はないのではないかと思います。一方、スタンプ税の場合は住宅市場に関する政策手段の一つとして税率を簡単に変えてしまいます。イギリスでは住宅価格上昇を止めるため、一時期スタンプ税を大きく引き上げました。この結果、買い控えがおきているという指摘なわけです。
中国人の投資家が一時の勢いを失ったことも響いています。中国勢は大口の著名ビルとしては、シティの「チーズグレイター」「トーキーウォーキー」を取得しました。これらにはポンド安で割安になったからという面もあります。現在、中国勢の投資が激減しているのは主として中国の国内要因からで、今のところ、これの回復の見込みはありません。
状況を変える可能性があるのは、ロンドンを貫いて東西118kmを走る鉄道新線クロスレイル(エリザベス線)です。ロンドン部分の開業予定は当初は今年12月でしたが、来年秋に延期されました。この鉄道が開通すれば、ロンドンの不動産市場は大きく変化するものと思われます。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清